アナザーエナジー展の感想と解説!片岡真美、マーティン・ゲルマンのキュレーションで、ヌヌンWS、アルピタ・シン、フィリダ・バーロウ、三島喜美代、宮本和子らが参加


展覧会風景_森美術館展示室入口

アナザーエナジー展の感想と解説!

アナザーエナジー:挑戦しつづける力──世界の女性アーティスト16人

このところ私が出かけた、複数人による現代美術展とその出品作家単独の企画展です。

国立新美術館での「古典 × 現代2020―時空を超える日本のアート」は、現代美術家8人と江戸時代以前の美術作品をペアにしました。

フィリダ・バーロウ《アンダーカバー2(部分)》2020年

・古典 × 現代は、刀剣 × 美術家鴻池朋子のペアがありました。

出品作家展は、2020年にアーティゾン美術館で「ジャム・セッション 石橋財団コレクション × 鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり」がありました。瀬戸内国際芸術祭2019の出展作品《皮トンビ》が大きく広げてありました。展覧会ではありませんが、角川武蔵野ミュージアムのファサードにも《武蔵野皮トンビ》がいました。トンビひっぱりだこ。

・古典 × 現代は、葛飾北斎 × 漫画家しりあがり寿。

出品作家展は、2021年にすみだ北斎美術館で「しりあがりサン北斎サン―クスッと笑えるSHOW TIME!」が。古典 × 現代のときの、北斎がくねくねダンスするアニメ《-葛飾北斎- 天地創造 from 四畳半》に再会しました。このアニメとは何かの縁を感じます。

リリ・ディジュリー《無題(均衡)》1967年

・古典 × 現代は、江戸時代の絵師曾我蕭白(そがしょうはく)× 横尾忠則。

出品作家展は、愛知県美術館、東京現代美術館では「GENKYO 横尾忠則」を10月17日(日)まで開催中、その後大分県立美術館12月4日(土)から2022年1月23日(日)です。《ニューオリンズからの使者》に蕭白の《雪山童子図(せっせんどうじず)》の童子の模写が出てきます。私は初めて蕭白を見たときにデジャヴと感じました。本家より横尾作品が先だったからです。

アンナ・ボギギアン《シルクロード》2021年

また、2020年に森美術館で「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」がありました。スターは草間彌生、李禹煥(リ・ウファン)、宮島達男、村上隆、奈良美智、杉本博司の6人です。代表作と新作が並びました。

カルメン・ヘレラ《京都(緑)》2016年

・草間は、2018〜2019年にフォーエバー現代美術館祇園・京都で「草間彌生 永遠の南瓜展」。同館は現在一時休館している祇園甲部歌舞練場(ぎおんこうぶかぶれんじょう)にありました。畳敷きの美術館です。

直島の南瓜・・・。

・杉本は、2020年に京都市京セラ美術館で「杉本博司 瑠璃の浄土」、同時期に細見美術館で「飄々表具─杉本博司の表具表現世界─」がありました。《罐鈴汁缶(かんべるしるかん)》は、アンディー・ウォーホールが、京都の老舗旅館の宿帳に殴り書きしたものを杉本が表具しました。

殴り書きは「丼」の文字に似ていました。お馴染みのキャンベルスープです(笑)。

三島喜美代《作品92-N》1990〜1992年

まあ、とは言うものの、この人たちしかおらんのかい、くらいは思いました。

そこへアナザーエナジーがやって来ました。「16名の年齢は71歳から105歳まで、全員が50年以上のキャリアを誇ります。」に目を留めました。こういった作家たちがいることを、私は知りませんでした。期待と不安。

ヌヌンWS《織物の次元1番》2019年

上図《織物の次元1番》の水平と垂直の構成はピート・モンドリアンを思わせます。モンドリアンは赤・青・黄の3色が、黒のグリッドにより分割されている作品が多いです。ビビッドでめりはりのある配色は都会的な印象をあたえます。

一方、上図は黒・白が多く、赤・紺が次ぎ、緑・黄がわずかです。黒はどことなくミステリアスです。私には、ヌヌンWSがイメージのリソースとした、ジャワ島のボロブドゥール遺跡が浮かびました。大きな色面は空や陸や海に。重なる細い線は明暗や移動にも見えます。彼女の心象風景を抽象画に置き換えたようです。

宮本和子《黒い芥子》1979年

上図《黒い芥子》の後方右の作品は《無題》1975年 です。細い線の重なりだけで、濃淡や奥行きが描き出されています。いびつな形の円は、コンパスによるものではありません。線の起点も目分量です。変形の繰り返しは、コンピュータの得意とするところですが全て手作業です。まだコンピュータが普及していない頃とはいえ、です。

私が思ったのは、野老朝雄(ところあさお)による五輪のエンブレムです。野老は現在活躍中の作家です。コンピュータで、エンブレムをどのように描いたのか興味がありました。TOKYO 2020公式アートポスターに、野老の描いた作図跡の残るエンブレムを見つけました。幾何学図形はコンピュータという私の予想に反し手描きでした。

《黒い芥子》は手描きに加え、気の遠くなるような糸と釘です。京都国立近代美術館での「モダンクラフトクロニクル」に、やはり糸と釘の《糸の構成(無題)》1977年がありました。宮本の画歴の痕跡のひとつです。

ミリアム・カーン《美しいブルー》2017年

社会問題を描く画家で思い当たるのが、ベン・シャーンです。1954年に日本のマグロ漁船第五福竜丸が、ビキニ環礁付近でアメリカの水爆実件による死の灰を浴びます。乗組員たちは実験については知らされませんでした。このことは「第五福竜丸事件」として、原水爆禁止運動のきっかけとなります。ベンは事件の重大性を思い来日し「ラッキードラゴン」シリーズ11点を描きました。

湧きあがる雲の中に、モンスターが姿をのぞかせています。童話のようでもありますが、これは水爆のキノコ雲です。絵本にもなっています『ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸』。

カーンは、告知に使われている肖像画の作家です。上図《美しいブルー》は、青い色彩に人物が溶け込むような幻想的な作品です。タイトルが夏の思い出ならウォータースライダーでしょう。

この作品は2015年の欧州難民危機に取材しています。同年、地中海やヨーロッパ南東部を経由してEUへ向かう難民・移民が100万人を超します。そのため、2000人近くの難民・移民を乗せた5隻の船が地中海に沈み1200名の犠牲を出しました。画面には、大海に沈んで行く難民・移民の姿が描かれています。タイトルに冠した美しいは逆説的です。

アルピタ・シン《私のロリポップ・シティ:双子の出現》2005年

風景と複数の人を描いた女性作家に、グランマ・モーゼス(アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス)がいます。ちょうど展覧会が、大阪・名古屋・静岡・東京・広島を巡回中です。

モーゼスが本格的に絵筆を取ったのは75歳からで、101歳で亡くなるまで描き続けました。アナザーエナジーの16人とちがうのは、モーゼスは農家の主婦で美術教育は受けていないこと。画業を余暇と考えていたことです。

《5月:せっけんを作り、羊を洗う》《アップル・バター作り》《村の結婚式》など、身近な出来事を田園風景の中に淡々と描きました。

これとは対照的なのが、上図《私のロリポップ・シティ:双子の出現》です。ここに描かれているのはデリーの地図です。ピンクと水色を背景色とし、同じ形状で反復する人・雲・飛行機・車が人工的な景色を生み出します。

上部の帯には「天国はあなたの思い出を守る場所だった」。右側の帯には「この地図は間違い。従うな」などと記されています。コミカルともシリアスとも思えない、混沌とした世界には現状への批判がこめられているようです。

アナザーエナジー展の図録をマニアが分析!

『アナザーエナジー:挑戦しつづける力──世界の女性アーティスト16人』

通常版

・表表紙のビジュアルはフィリダ・バーロウの《アンダーカバー2(部分)》です。裏表紙へと続きます。ビビッドな暖色に包まれ現代女性作家らしいイメージです。

表紙の端から背表紙にわたって、補強用の白のクロステープが貼ってあります。タイトルは表表紙、背表紙のクロステープに朱色で記されています。スタイリッシュな装丁です。朱色はビジュアルから採ったものと思われます。裏表紙のクロステープには16人の作家名が記されています。

・巻頭のあいさつや目次などは、薄い青色の用紙(色上質紙)に紺色のインクで記されています。単色刷りでも2色刷りのように見えます。

・それぞれの作家のページの扉は、全面に朱色のポートレートが引かれています。作家ごとにランダムに白枠を取り、作家名・誕生年・出身地が記されています。また、作家のメッセージが一言添えられています。

作品はひとり7ページにわたります。作家によって展示作品のほか森美術館での展示風景、過去に制作した作品を折り混ぜながら掲載しています。

美術評論家、編集者、詩人などからそれぞれの作家に向けた論考は、巻頭と同様薄い青色の用紙に紺色のインクで記されています。

・巻末のふたりのキュレーターによる論考、作家略歴などは薄いオレンジ色の用紙に紺色のインクで記されています。

ソフトドカバー/ W210mm × H282mm/ 単色・2色・カラー/ 364ページ/ 日・英
定価:5,500円(税込)

ガイド版

・表紙はベージュの背景色にオレンジ色の文字が、縦組み・横組み混在で記されています。表表紙のビジュアルはミリアム・カーンの《無題》です。

裏表紙は作家名が和文と欧文、それぞれが横組みで記されています。これらは背をまたぎ一部が表表紙にかかっています。文字で構成されたデザインです。

・巻頭のあいさつや目次、巻末の論考や作品リストは、薄いサーモンピンクの用紙に紺色のインクで記されています。内容は通常版と同じです。

・対談 ”アナザーエナジー”とは? は、ガイド版のみに掲載されています。ベージュの背景色に見開きで、16人の作家のポートレートがカラーで掲載されています。

・それぞれの作家のページの扉は文字だけです。作家名・誕生年・出身地と、これまでの作品の解説に作家のプロフが記されています。

作品は5ページにわたり、これまでの作品が掲載されています。森美術館での展示風景はありません。

ソフトドカバー/ W210mm × H282mm/ 単色・2色・カラー/ 168ページ/ 日・英
定価:1,870円(税込)


展覧会風景_森美術館ミュージアムコーン

アナザーエナジー展のグッズは何がある?


展覧会風景_森美術館ミュージアムショップ

展覧会のタイトルロゴの入ったTシャツ、サコッシュ、ブドウ糖ラムネ瓶。パターンやキャラクターを用いたTシャツ、トートバッグ、ポストカード、文具などがありました。

アナザーエナジー展の混雑状況は?

ビッグデータから

混雑状況を、ビッグデータから解析するサイトを見ます。

「あの展覧会混んでる?」

グーグルマップから

混雑状況は、グーグルマップの左カラムにある「混雑する時間帯」で、曜日ごとに知ることができます。下方にあるマップから「拡大地図を表示」か、グーグルマップで「森美術館」を検索して開きます。


展覧会風景_森美術館ミュージアムコーン

アナザーエナジー展の所要時間は?

90〜120分
※作家のインタビュー動画は飛ばしています。

アナザーエナジー展のチケットはいくら?

平日 当日窓口
一般2,000円/ 学生(高校・大学生)1,300円/ 子供(4歳〜中学生)700円/ シニア(65歳以上)1,700円

平日 オンライン
一般1,800円/ 学生(高校・大学生)1,200円/ 子供(4歳〜中学生)600円/ シニア(65歳以上)1,500円

土・日・休 当日窓口
一般2,200円/ 学生(高校・大学生)1,400円/ 子供(4歳〜中学生)800円/ シニア(65歳以上)1,900円

土・日・休 オンライン
一般2,000円/ 学生(高校・大学生)1,300円/ 子供(4歳〜中学生)700円/ シニア(65歳以上)1,700円

※専用オンラインサイトから「日時指定券」の購入や予約が可能。
※オンラインでのチケット販売は18:30~19:00の回が最終となる。19:00以降のチケットは、当日窓口にて購入する。
※当日、日時指定枠に空きがある場合は、事前予約なしで入館できる。


展覧会風景_森美術館エスカレーターホール

アナザーエナジー展の会場・巡回先はここ

森美術館 2021年4月22日(木)~2022年1月16日(日)

〒106-6106 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
Tel. 050-5541-8600(ハローダイヤル 9:00~20:00)

開館時間
月・水~日
10:00~20:00(最終入館 19:30)

10:00~17:00(最終入館 16:30)

休館日
会期中無休

アクセス
電車
○東京メトロ日比谷線
「六本木駅」1C出口、徒歩3分(コンコースにて直結)
○都営地下鉄大江戸線
「六本木駅」3出口、徒歩6分
○都営地下鉄大江戸線
「麻布十番駅」7出口、徒歩9分
○東京メトロ南北線
「麻布十番駅」4出口、徒歩12分
○東京メトロ千代田線
「乃木坂駅」5出口、徒歩10分

バス(六本木ヒルズまで)
渋谷方面より
○都バス RH01系統(渋谷~六本木)
「六本木ヒルズ」「六本木けやき坂」
○都バス 都01系統(渋谷~新橋)
「六本木駅前」「EXシアター六本木前」
○都バス 渋88系統(渋谷~新橋)
「六本木駅前」「EXシアター六本木前」
新橋方面より
○都バス 都01系統(渋谷~新橋)
「六本木駅前」「EXシアター六本木前」
○都バス 渋88系統(渋谷~新橋)
「六本木駅前」「EXシアター六本木前」
品川、五反田方面より
○都バス 反96系統(品川・五反田~六本木)
「六本木駅前」「六本木ヒルズ」