「没後50年鏑木清方展」は、44年ぶりに再発見された代表作《築地明石町》《新富町》《浜町河岸》をはじめ、清方を広く知らしめた美人画や、明治の庶民生活を描いた風景画・風俗画・肖像画など110点でその画業をたどります。
鏑木清方展の感想と解説!
鏑木清方(かぶらききよかた)は、江戸情緒の残る東京下町を愛し多く描きました。
《鰯》(085)1937年
清方と双璧をなす上村松園(うえむらしょうえん)の《序の舞》(下図)は、女性の高い精神性を具現化したものです。人物一点に思いを込め、背景は描かずに抽象的空間に留め置きます。外界から隔てられ、閉じた空間の中に静かな緊張感が漂います。
※「鏑木清方展」に展示はありません
三部作が再発見されたおり、2019年に「鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開」が開催されました。
このときの目録の一面に『東京市京橋区全図』(1907年3月)がありました。なんとも粋な計らいです(笑)。北は南紺屋町(東銀座)から南は佃島、西は浜離宮庭園から東は隅田川までを切り取ります。
清方は1897(M11)年に神田佐久間町で生まれ、翌年京橋南紺屋町に転居します。1895(M28)年に17歳で本郷湯島新花町に移り住むまでこの地図の中を点々としました。
《築地明石町》(057)1927年
《築地明石町》(57)(上図)は清方が49歳のときの作品です。失われて久しい外国人居留地のハイカラな情景を、少年時代の記憶と似つかわしい女性の姿を借りることで象徴的に描きました。
朝霧の中で振り向く女性は、黒髪に黒い羽織と浅葱色(あさぎいろ)の単衣(ひとえ)の装いです。白地に黒色のボリュームが、強度のコントラストをあたえ画面全体を際立たせています。
《浜町河岸》(066)1930年
単衣の小紋、指輪の凹凸、下駄の畳表の目までもが事細かに描写されています。にもかかわらずリアリズムに向かわないのは、輪郭線を引いたり形を抑揚のない平面で描く日本画の様式によります。日常にあふれる所作の美しさを明確にとらえました。
画面右下では、洋館の水色の柵に朝顔の蔦が絡まります。上部には青と赤の花弁が、下方には枯れはめじめ黄色くなった葉が描かれています。花弁は黒をまとったストイックな人物像に彩りをあたえ、葉は晩夏から初秋への季節の移り変わりを表しています。
《小説家と挿絵画家》(105)1951年
左上には、帆船がマストを並べる様子を輪郭線だけで描き、すぐそこまで入江が迫っていることを示しています。
これらの背景が、淡彩で消え入りそうに描かれているのは霧や遠近にもよりますが、永遠に留めておけない明治時代の風景を、戻ることのない自らの少年時代の追想に重ねているからです。清方の三部作は外界の喧騒の記憶から起こされました。
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・三部作がおもて表紙とうら表紙に、どのように収められているのかが装幀の見どころです。ショップの平積みからは想像できませんでした。おもて表紙は《築地明石町》(057)です。女性の顔が大きくトリミングされています。タイトルは画面左端に明朝体縦組みで記されています。A Retorospective は「回顧展」です。
その折り返しに《浜町河岸(はまちょうがし)》(066)があります。遠方の風景も取り入れ、腰のあたりまでがほぼ収められています。顔だけをクローズアップしたおもて表紙と抑揚を作り出します。
《新富町》(064)1930年
そして、装幀のポイントはうら表紙にあります。淡いオレンジ色の和傘の内側に、円錐形に組まれた飾り糸と受骨の幾何額的構成が美しいです。下ロクロにかかる白い手は、柔らかな動きを加えます。折り返しには、淡いオレンジ色を背景にうつむく女性の横顔です。
《新富町》(064)(上図)の横顔と和傘の中棒の間を山折にし、表裏でそれぞれ独立した2点にしました。おもて表紙・うら表紙の組み合わせで考えても、肖像画と静物画となり意外性を生み出します。
東の鏑木清方、西の上村松園と言われるように、清方は美人画家として定評がありますが、清方が描きたいと思ったのは、人々の生活でした。清方の言葉をご紹介します。「もとめられて描く場合は、美人画が多いけれど、自分の興味は生活にある。それも中層以下の階級の生活に最も惹かれます」#鏑木清方展 pic.twitter.com/Cp211ouQCq
— 没後50年 鏑木清方展【公式】 (@kiyokata_2022) February 9, 2022
・1956年、清方78歳のときのポートレートから始まります。
・各章のタイトルは、清方の転居先の家屋に付けた名称を含み情緒があります。
《一葉女師の墓》(004)1902年
第一章「木挽町紫陽花舎・東京下町にて(明治)」。清方は京橋木挽町(こびきちょう)など東京の下町で育ちました。結婚した後、木挽町の家を自身の別号「紫陽花舎(あじさいのや)」と呼びました。《一葉女師の墓》(004)(上図)《佃島の秋》(007)はこの頃の作品です。
第三章「牛込矢来町・夜蕾亭にて(昭和戦前)」。関東大震災を機に牛込矢来町(やらいちょう)に転居しました。建築家吉田五十八(よしだいそや)に、矢来町の家の改築を依頼し「夜蕾亭(やらいてい)」としました。
《三遊亭円朝像》(061)1930年
土地の肖像画とも言われる《築地明石町》(057)、重要文化財に指定された《三遊亭円朝像》(061)(上図)はこの頃に描かれました。
・作品の多くは1ページに1点が掲載されています。折帖、画帖、額、画巻などのシリーズ作品はこの限りではなく、《注文帖》(055)のように1ページに6点掲載されている箇所もあります。作品の解説は、巻末にまとめられています。
折り込んであるページを開く、観音開きが数カ所あります。《黒髪》(022)は四曲一双(よんきょくいっそう)の屏風です。左ページが折り込まれており、一双が3ページで掲載されています。左ページ裏面には、右隻第三扇(うせきだいさんせん)に描かれた黒髪を洗う女性の部分拡大が載せられています。
《賛春》(068)は六曲一双です。左右のページが折り込まれでおり、開くと4ページになります。左隻と右隻がそれぞれ2ページで、前後の2ページに部分拡大があります。
《明治風俗十二ヶ月》(068)1935年
《明治風俗十二ヶ月》(068)(上図)は軸が12幅(ふく)です。やはり両観音開き4ページで、前後4ページに部分拡大があります。うち《金魚屋 六月》は、水槽を泳ぐ金魚と金魚屋の足元。《二百十日 九月》は倒れた鉢植えと、意外な場面がトリミングされています。見どころです。
《築地明石町》(057)をはじめとする三部作は、下絵と部分拡大が2ページ添えられています。《浜町河岸》(066)は折り返しでは、画面の上部3/5ほどが載せられていました。こちらでは顔が大きくトリミングされ、扇子を当てた口元から覗く歯の描写まで確かめることができます。
・「鏑木清方の絵をすみずみまで味わうブックガイド」があります。1ページに6冊が4ページにわたり、24冊が表紙の画像を添え紹介されています。私は『鏑木清方原寸美術館100% KIYOKATA!』『鏑木清方 清く潔くうるわしく』を所蔵していました。
・モノクロページは、《紙双屋の店》(029)《隅田河周遊》(017)の部分拡大をはさみ巻末に余韻を残します。
ソフトカバー/ W225mm × H290mm/ モノクロ・カラー/ 312ページ/ 日・英
2,800円(税込)
鏑木清方展のグッズは何がある?
『鏑木清方原寸美術館100% KIYOKATA!』
『鏑木清方 清く潔くうるわしく』
鏑木清方展の混雑状況は?
私は平日の午前中に入館しましたが空いていました。
ビッグデータから
京都近代美術館をビッグデータから解析するサイトを見ます。
グーグルマップから
混雑状況は、グーグルマップの左カラムにある「混雑する時間帯」で、曜日ごとに知ることができます。下方にあるマップから「拡大地図を表示」か、グーグルマップで「京都近代美術館」を検索して開きます。
鏑木清方展の所用時間は?
90〜120分
私は10:56から13:02で鑑賞しました。
鏑木清方展のチケットはいくら?
京都展
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当日券
一般1,800円/ 大学生1,100円/ 高校生600円/ 中学生以下、15歳未満無料
団体券
一般1,600円/ 大学生900円/ 高校生400円/ 中学生以下、15歳未満無料
ペア券
3,000円(2枚・一般のみ)
トリプル券 限定333セット
4,200円(3枚・一般のみ)
※団体は20名以上、団体鑑賞の場合は事前に美術館に問い合わせる
※前売券・ペア券・トリプル券は、4月27日(水)から5月26日(木)まで期間限定販売
※本料金でコレクション展も鑑賞できる
鏑木清方展の会場・巡回先はここ
東京展 2022年3月18日(金)~5月8日(日)
東京国立近代美術館
京都展 2022年5月27日(金)~7月10日(日)
京都国立近代美術館
〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町26-1
Tel. 075-761-4111(代表)
開館時間
10:00~18:00(入館は17:30まで)
「没後50年 鏑木清方展」会期中(5月27日(金)から7月10日(日)まで)は9:30~18:00
夜間開館
毎週金曜日は20:00(入館は19:30)まで
休館日
毎週月曜日(月曜日が休日に当たる場合は、翌日が休館)及び年末・年始
アクセス
JR・近鉄~バス
○JR・近鉄「京都駅前」A1のりばから、市バス5番 銀閣寺・岩倉行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
阪急・京阪~バス
○阪急「烏丸駅」阪急「京都河原町駅」京阪「三条駅」から、市バス5番 銀閣寺・岩倉行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
○阪急「烏丸駅」阪急「京都河原町駅」京阪「祇園四条駅」から、市バス46番 祇園・平安神宮行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
市バス他系統
○「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」下車徒歩約5分
○「東山二条・岡崎公園口」下車徒歩約10分
地下鉄
○地下鉄東西線「東山駅」下車、1番出口より徒歩約10分