「キース・ヴァン・ドンゲン展―フォーヴィスムからレザネフォル」は、フォービズムの画家キース・ヴァン・ドンゲンの日本の美術館では44年ぶりの展覧会です。初期の挿絵からレザネフォル期に描かれた版画・風景画・肖像画まで67点が並びます。
キース・ヴァン・ドンゲン展の感想と解説!
《母と子》(6)1906年
○背景にある焦茶色と赤色の色面が、画面の半分ほどをおおい作品の印象を担っています。母は緑色と黒色の上下をまとっています。これらの強烈な色面に囲まれ、母と子の肌が明るく浮き上がります。
母の顔は右半分に影がさし、子は橙色の太い輪郭線にグレーの影が重ねられています。これらは肌色の面に、立体感や柔らかさを持たせます。
緑色は暖色でも寒色でもない中性色、黒色は色相(色味)を持たないため、全体として温かみのある空間を構成しています。
《パリジェンヌ または 美の小径》(11)1907~09年頃
○背格好の近い女性ふたりが、同じポーズでこちらを見つめています。紺色と淡いピンクのコントラストが絶妙です。同じ形に異なる色と、これだけでも十分リズミカルな構成です。彩色は大胆な筆触で、わずかな濃淡を持たせ平面的に塗られています。
左の女性は黄土色の髪で、クリーム色と紺色の帽子をかぶっています。額からまぶたに掛かる影には、緑色が用いられフォーヴィスムの片鱗を見せています。
鮮やかな紺色のドレスは、首から胸にかけての装飾、下ろした袖、裾のひだがかすかに描かれています。ヒールのある白い靴にはアクセサリーが留められているようです。
《花瓶》(12)1908年頃
右の女性の髪は紺色ですが、背景との境界は不明瞭に描かれています。淡いピンクのドレスには、橙色の胸元飾りがのぞいています。小豆色の影が描かれ腕の位置が明確です。靴はヒールのある白でしょうか。
背景は右の女性の左右で明暗が分けられています。暗い紺色の背景には明るい緑色、明るいピンクには暗い濃緑色が引かれています。明暗の対比を用い、ふたりの女性に存在感を持たせています。特に右の暗い背景色は黒色に近く、右の女性の背から脚に至る湾曲したラインを強調します。
ユニークな構図に加え、計算された色面の配置が美の小径を彩っています。
《楽しみ》(26)1914年
「キース・ヴァン・ドンゲン展」パナソニック汐留美術館で、フォーヴィスム〜“狂乱の20年代”の画業を紹介 – https://t.co/Vvjq1pf0Uc pic.twitter.com/a6Y0eAn5wE
— Fashion Press (@fashionpressnet) May 31, 2022
○グレーと茶色の色面が画面を分割しています。茶色は、イーゼルの上に乗せられた絵画《マドモアゼル・ミロワールとマドモアゼル・コリエとマドモアゼル・ソファー》(下図)です。
※「キース・ヴァン・ドンゲン展」に展示はありません。
左はグレーの壁に《ハーブ売りと娼婦》と、朱塗のテーブルの上には香炉が並べられています。絵画・イーゼル・テーブルと、矩形がいくつも接近して描かれており、ギスギスした印象をあたえそうです。
※「キース・ヴァン・ドンゲン展」に展示はありません。
白いドレスの女性が、ヴァン・ドンゲンに代わり絵筆を取り、制作中のカンヴァスに目をやっています。肌の色も白くドレスと同化して、どことなく象徴的です。女性がこの位置に立つことにより、左右の絵画の縦方向のラインが隠されギスギス感が緩和されます。
長くデフォルメされた女性の、右肩から腕を通り指先まで延びる曲線は、画面に優雅さをあたえます。女性のシルエットを際立たせるために、直線で囲まれた矩形を用意したのかと思えるほどです。
《ラ・ぺ通り または パリのラ・ぺ通り》(31)1918年頃
《マドモアゼル〜》は、黒の輪郭線に肌の色も背景色も赤が引かれています。《ハーブ売り〜》は、肌の色は赤く背景色に濃い青色と黒が使われています。
いずれも、他を寄せ付けないフォービズムらしい鮮烈な彩色です。そのため、赤色の彩度を落とし茶色に変換し、《楽しみ》の画中画としました。
ヴァン・ドンゲンは女性を優雅さの象徴とし、自らの代わりに作品の前に立たせます。他の画家には見られないような、独自のシチュエーションを描きました。
『キプリングの最も美しい物語』(33)1920年
『ドーヴィル』(57)1931年
《アリアナ・ギデオノフウの肖像 または アリアンの肖像》(64)1932~34年
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○表表紙は《楽しみ》(26)が、淡い薔薇色を背景色にして置かれています。本編より大きい扱いです。
タイトルは欧文だけで記されています。書体は「Antiqa Roman(アンティカ ローマン)」(下図)です。縦長の細いローマン体で繊細な印象をあたえます。
「Van」の「a」のひさしが短いこと、「Années」の「A」のアペクス(頂点)が左に飛び出していることが特徴です。
また「F」のバー(横棒)が高い位置にあるので「From」の「r」や「Fauvism」の「a」が「F」のスペースに詰められています。
告知には「Chamberi Display Light(チェンバリー ディスプレイ ライト)」が用いられています。
背表紙・裏表紙には、作品にも使われている茶色が引かれています。
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○巻頭にはヴァン・ドンゲンの1950年、73歳のときのモノクロのポートレートがあります。1章の終わりには1902年頃、25歳のときがありました。
○各章の扉は見開きで左ページに和文、右ページに仏文が記されています。左ページはグレーの背景色で、左端に縦に幅14mmの茶色の帯があります。右ページはこれと対称になっており、茶色の背景色にグレーの帯です。この配色も《楽しみ》(26)の背景を埋める2色から採りました。
○作品は冊子や版画や2点の水彩画のほかは、1ページに1点が収められています。タイトルとスペックと、数点の作品には解説も添えられています。
《女曲馬師(または エドメ・デイヴィス嬢)》(34)1920~25年
《私の子供とその母》(5)《パリジェンヌ または 美の小径》(11)《中国の花瓶》(17)《楽しみ》(26)《女曲馬師(または エドメ・デイヴィス嬢)》(34)(上図)《ピンク色のドレスの女性》(51)(下図)の6点は、白地のページを伴い見開きで掲載されています。これらは見どころです。
○巻末は「キース・ヴァン・ドンゲン年譜」に6ページが割かれています。
《ピンク色のドレスの女性》(51)1925年頃
ソフトカバー/ W215mm × H300mm/ モノクロ・カラー/ 128ページ/ 日・英・仏
3,000円(税込)
キース・ヴァン・ドンゲン展の混雑状況は?
私は平日の午前中に入館しましたが、やや混雑していました。
ビッグデータから
「パナソニック汐留美術館」をビッグデータから解析するサイトを見ます。

グーグルマップから
混雑状況は、グーグルマップの左カラムにある「混雑する時間帯」で、曜日ごとに知ることができます。下方にあるマップから「拡大地図を表示」か、グーグルマップで「パナソニック汐留美術館」を検索して開きます。
キース・ヴァン・ドンゲン展の所用時間は?
60〜90分
私は10:18から12:03で鑑賞しました。
キース・ヴァン・ドンゲン展のチケットはいくら?
一般1,000円/ 65歳以上900円/ 大学700円/ 中学・高校生500円/ 小学生以下無料

キース・ヴァン・ドンゲン展の会場・巡回先はここ
パナソニック汐留美術館
〒105-8301 東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
Tel. 050-5541-8600(ハローダイヤル)

会期
2022年7月9日(土)~9月25日(日)
開館時間
10:00~18:00(入館は17:30前まで)
※9月2日(金)は夜間開館 18:00まで(入館は19:30前まで)
休館日
水曜日(祝日は開館)、8月12日(金)~17日(水)
アクセス
JR「新橋駅」烏森口・汐留口・銀座口より徒歩約8分
東京メトロ銀座線「新橋駅」2番出口より徒歩約6分
都営浅草線「新橋駅」JR新橋駅・汐留方面改札より徒歩約6分
ゆりかもめ「新橋駅」より徒歩約6分
都営大江戸線「汐留駅」3・4番出口より徒歩約5分