「DOMANI・明日展」は、文化庁が実施する「新進芸術家海外研修制度(在研)」の成果の発表の展覧会です。マンガ・写真・現代美術・絵画・彫刻・インスタレーションとジャンルを超えた10人が国立新美術館に並びます。
DOMANI・明日展2022-23の感想と解説!
近藤聡乃
『ニューヨークで考え中』第237話 2021年
○氷山をくぐったらマンガに迎えられました。現代美術ばかりではありません。近藤は2008年に研修員として渡米します。当初1年だけのつもりが、ニューヨーク在住14年になりました。そう来たかと思いました(笑)。
日々の出来事を、コミックエッセイ『ニューヨークで考え中』に隔週で連載し10年を迎えました。その展示です。私は会場の原画を残らず読みました。
「二百三十七、二十年後の移民」(上図)は、2021年9月23日の掲載です。当時の心境が綴られています。20年前に大学生の近藤が、白煙を上げるワールドトレードセンターを家族と実家のテレビで見つめています。
《Toribute in Light》2021年
ニューヨークの現在、住居の窓から夜空を眺めます。最近あるアクシデントがきっかけで、ようやく自らが移民であると自覚を持つようになりました。同時に、アメリカの問題も他人事ではないと感じるようになります。
ラストの1コマは、ここだけ改めて描き起こされています(上図)。私は、街並みの臨場感あふれる描写に見とれていました。しかし、見るべきは垂直に突き抜ける2本の白いラインです。
近藤が夜空に探していたのは、同時多発テロの犠牲者を偲ぶ、このトリビューン・イン・ライトでした。そのことで20年前にテレビで見た、事件の間近にいることを再認識します。私は、研修制度から移民に至る巡り合わせを思いました。
石塚元太良
《Inner Lake George》2019/2022年
池崎拓也
「The Address on The Address」シリーズより
大﨑のぶゆき
《Toravel Journal》2022年
丸山直文
《drawings 2011/ドマーニ・バージョン2022》2022年
《水を蹴る(それゆえにこそ)》2022年
伊藤 誠
《船の肉》2003年
《北半球》2017年
北川太郎
《静けさ1》2016年
《手の考える世界》2014-2022年
黒田大スケ
○10人の中で、いちばん分からなかったのがこの作品です。今でも分かりません。
「今回は、太平洋戦争末期に奈良県天理市に急造された大和海軍航空隊大和基地(通称:柳本飛行場)と、戦争映画『ハワイ・マレー沖海戦』(1942)の本物と見間違うような真珠湾のジオラマ製作に携わった彫刻家をリサーチし、実在の彫刻家たちをモデルに、独り語りを即興で演じたものを記録したビデオ作品と、大和海軍航空隊大和基地をイメージしたジオラマを彼らになりきって制作しました。」
基地と彫刻家をリサーチして、前者はジオラマに後者はビデオ作品としました。奥の映像はビデオ作品の部分です。カモとアヒル(上図)は、話者の口元から胸にかけて描かれました。
私はインタビュアーばかりではなく、彫刻家にまでペイントしたおおらかさに驚かされました。いいえ、独り語りなので作家の一人芝居です。
手前にあるのは基地のジオラマです。黒田は『ハワイ・マレー沖海戦』の彫刻家になりきり、これを制作しました。
カモとアヒルはコミカルで戦争遺跡とは不釣り合いです。モデルにした実在の彫刻家たちとは、今の人たちのことでしょうか。カモとアヒルは俯瞰する現代人。私はこのビデオ作品を全部見ました。長編でした。
谷中佑輔
小金沢健人
インスタレーション《2の上で1をつくり、1が分かれて2ができる》(2022)より
○引き延ばされた巨大な指が、カサカサと音をたて広い壁面を行き来します(上図)。紙面全体を隠し、手元だけをとらえた映像もまた、記録ではなく作品のひとつです。
描かれた抽象画の見どころは、柔らかに延びる色面の広がりと、そこにシャープに切り込む矩形の白です。白はドローイングを施すときに、マスキングすることによって生み出された塗り残しです。いたるところに塗り残しがあり、複雑なマスキングになりそうです。そうではありません。
2枚の用紙をずらして重ねます。重ねた境界を中心にドローイングを施します。このとき重なった下方は、上方の用紙よって自然にマスキングされます。重ねる場所を何度も変えることにより、彩色と塗り残しが繰り返し生み出されます。
早速、ブロックメモと3色ボールペンでやってみました(笑)。どちらの用紙にも白抜きの矩形を作るには、途中で上下を入れ替えなければならないようです。
完成した2点のドローイングは、ピタリと並べて展示されています(上図)。よく見ると、線画は分離される前の状態が分かります。並んだ2点から、時間の移ろいを読み取ることができるユニークな構成です。
DOMANI・明日展2022-23の図録をデサインマニアが分析!
○表紙の用紙には濃紺のボール紙が使われています。タイトルは上部に活版印刷でなされています。よく見ると、白い文字の部分は印圧で紙が凹んでいます。欧文書体はステンシル体が用いられています。和文はそれに合わせて、通常の書体に切れ目を入れたようです。
○表紙にはカバーが掛けられています。本体の高さ250mmに対してカバーは180mmです。本体上部にはカバーが掛からずに、濃紺の本体と白いタイトルが覗きます。
カバーのビジュアルは、10人の作家の作品が表と裏を飾ります。1冊に2作品が掲載されるので5種類あります。黒田大スケと近藤聡乃、池崎拓也と石塚元太良、小金沢健人と丸山直文、北川太郎と伊藤誠、谷中佑輔と大﨑のぶゆきの組み合わせです。
○「アーティストことばと作品」では、ひとりの作家が4見開きで掲載されています。うち、1ページが作品に寄せる作家のことばです。インスタレーションは、これまでの展示が載せられており、会場とは異なるものもあります。
○「新進芸術家海外研修制度と『DOMANI・明日展』の歩み』は、用紙にわら半紙 が用いられています。
ソフトカバー/W190mm×H250mm/モノクロ・カラー/148ページ/日・英
価格:1,500円(税込)
DOMANI・明日展2022-23の会場はここ!
国立新美術館
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
Tel.050-5541-8600(ハローダイヤル)
Fax.03-3405-2531
会期
2022年11月19日(土)~2023年1月29日(日)
開館時間
10:00~18:00
※毎週金曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
休館日
毎週火曜日(祝日又は振替休日に当たる場合は開館し、翌平日休館)
アクセス
電車
○東京メトロ千代田線「乃木坂駅」青山霊園方面改札6出口(美術館直結)
○東京メトロ日比谷線「六本木駅」4a出口から徒歩約5分
○都営地下鉄大江戸線「六本木駅」7出口から徒歩約4分
バス
○都営バス
「六本木駅前」下車、徒歩約7分
「青山斎場」下車、徒歩約5分
○港区コミュニティバス「ちぃばす」赤坂循環ルート「六本木七丁目」下車、徒歩約4分

