エゴン・シーレ展の感想と解説!シーレの油彩画、水彩画、版画など約120点を紹介!

「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」。日本で約30年ぶりのシーレ展です。シーレの油彩画、水彩画、版画を50点。クリムト、ココシュカ、ゲルストルらの作品もあわせた約120点を紹介します。東京都美術館で開催中です。

エゴン・シーレ展の感想と解説!

03 ウィーン分離派の結成

コロマン・モーザ《「第5回ウィーン分離派展」ポスター》(17)1899年


展示作品とは配色がちがいます。

○アルフォンス・ミュシャを思わせる、アール・ヌーヴォー調のポスターです。青緑色の用紙に、茶色と妖精の部分に金色の箔押しがなされた2色刷りです。

蝶の羽を持つ妖精が、花弁に腰を下ろしています。頭髪が植物の茎のように長く伸び、先端がくるりと円を描いています。

丸みを帯びた細い書体が、隙間を埋めるようにレイアウトされ、緻密なイラストを軽く持ち上げています。写実による妖精と、植物をもとにした飾り罫が織りなす幻想的な世界です。

07エゴン・シーレ アイデンティティーの探求

《ほおずきの実のある自画像》(51)1912年

○顔の右側面をこちらに向け、視線を投げるシーレの自画像です。背景が白地で、髪や衣服の暗さも手伝い、明確なシルエットを持っています。

頭部のトリミングは、顔面に鑑賞者の視線を向けさせます。蒼白な顔に立体感を持たせる陰影は、赤・茶・黄土・緑・青・紫などの色相が少量に、絶妙なバランスで引かれています。


《ワリー・ノイツェルの肖像》とペアで描かれました。展示はありません。

現実にはあり得ない彩色は、凹凸を複雑にし絵画でしか表現することのできない、繊細な表情を作り出しています。

衣服の描写は彩色ではなく、運筆によってできるスクラッチで描かれています。注視するとジャケットの襟が確認できます。顔面のわずかな彩りを引き立たせるため、衣服は平面的にまとめられました。

《叙情詩人》(59)1911年

モノトーンに近い自画像に色味をあたえるのが、唇とほおずきの朱です。人物は画面右に寄せられ、ほおずきのためにスペースが確保されています。ほおずきは、人物と対比させるための重要なモチーフです。

重い彩色で画面に留まる人物に対して、上部にひとつ下部に3つあるほおずきの朱色の実は生命感を。葉や湾曲した茎は、軽さや動きをあたえます。人物の視線の先ではなく、後方にさりげなくアイテムを置く特異な構図です。

《裸体自画像(「ゼマ」版画集特装版のための試し刷り)》(55)1912年

09エゴン・シーレ 風景画
《吹き荒れる風の中の秋の木(冬の木)》(88)1912年

《小さな街 II》(74)1913年

○風景画は撮影ができました。心象風景です。俯瞰して見た、密集した家並みが描かれています。画面下部1/3ほどを暗い水面が占めています。

この水面の広がりにより、正方形で縦横の方向性のない画面に、横方向の動きが生まれます。手前の一連の家並みの後方にも水面が認められます。さらに、その向こうに家並みが続きます。家並みと水面とがストライプを形成して、横方向を強調します。

《ドナウ河畔の街シュタイン II》(76)1913年

実際の水面はこれほど暗くはありません。中世の街が持つ歴史感や、作品としての重みを踏まえた色調の調整と思われます。

天を突くように、鋭利に伸びる三角屋根の家屋が川岸に並んでいます。淡彩を縁取る輪郭線は歪みを持ち、それぞれの家屋の繊細な構造を強調しています。

暗い水面を従え、ひっそりと静まり返り彩度を落とした風景画は、中世で時間を止めてしまったかのように思えます。

10オスカー・ココシュカ “野生の王”
オスカー・ココシュカ 《ピエタ》(84)1909年

○ココシュカ自らが執筆した戯曲「殺人者、女たちの希望」のポスターです。一見して、赤いドレスをまとう女性かと思いました。注視すると女性の右の胸の位置に顔があります(驚)。

ピエタとは、磔刑(たっけい)に処されたイエス・キリストの亡骸を、聖母マリアが腕に抱き嘆き悲しむ場面を描いたものです。赤いドレスは男性の裸体でした。

紺色の背景に、蒼白な女性の顔と両腕が浮かび上がります。うつろな目は窪み、頬はこけ、首にかかる枝毛は生物のようです。聖母と言うより魔女を思わせます。

男性は赤い裸体をU字に折り曲げ、関節技をかけられているようです。スキャンダルを巻き起こした戯曲とは裏腹に、ドローイングの冴える告知ポスターはホラーコメディーにも思えます。

13エゴン・シーレ 裸体
《背中向きの女性のトルソ》(99)1913年

《頭を下げてひざまずく女》(103)1915年

14 エゴン・シーレ 新たな表現、早すぎる死
《縞模様のドレスを着て座るエーディト・シーレ》(108)1915年

《「第49回ウィーン分離派展」》(113)1918年

エゴン・シーレ展の図録をデサインマニアが分析!

○表紙には《ほおずきの実のある自画像》が、額の右側ギリギリの位置で縦位置にトリミングされ、画面右上に裁ち落としで収められています。

下部の余白には「EGON SCHIELE」の文字が、ウエイトのあるサンセリフ体で組まれています。2行に改行され、自画像の下部をわずかにおおいながら、横幅いっぱいに配され力強さを感じさせます。この部分には、裏表紙ともに凹みを持たせるデボス加工が施されています。

これらをレイアウトする画面を、ダイヤ柄のエンボス加工が包みます。空白だけの裏表紙は、このダイヤで埋め尽くされています。

○巻頭には両観音開きの8ページがあります。外側の4ページには、会場でも目にしたシーレのポートレートが、余白を活かしてレイアウトされています。

内側の4ページを開くと、シーレの1890年の0歳から、1918年の28歳までの年表が横長に現れます。今回展示のない代表作品も交え記されています。図録の見どころです(笑)。

○章の数が14と贅沢です。シーレに関するもの、ウィーンに関するものとあります。各章の扉は見開きで、図版はなく文字組みだけです。前者は青紫色、後者は薄茶色に色分けがなされています。

01章の扉を開くと見開きで、パレットを持つエゴン・シーレ(上図)の顔面の部分拡大があったので驚きました。「ぼくの粗野な教師たちは僕にとって常に敵だった。」と、シーレの言葉が添えらています。

ハードカバー/ W210mm × H270mm/ モノクロ・カラー/ 312ページ/ 日・英
価格:3,080円(税込)

エゴン・シーレ展の会場はここ!

東京都美術館(東京・上野公園)

〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
Tel.050-5541-8600(ハローダイヤル 全日/9:00~20:00)

会期
2023年1月26日(木)~4月9日(日)

開館時間
9:30~17:30、金曜日は20:00まで (入室は閉室の30分前まで)

休館日
月曜日

アクセス
JR「上野駅」公園口より徒歩7分
東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口より徒歩10分
京成電鉄京成「上野駅」より徒歩10分

東京都美術館の行き方!銀座線「上野駅」から!
銀座線「上野駅」上野公園方面改札から東京都美術館まで、多くの画像を交え案内します。途中「東京文化会館」、JR「上野駅」公園口、「国立西洋美術館」、「上野動物園」の行き方も案内します。

https://www.egonschiele2023.jp