マリー・ローランサンとモード展は、同年に生まれた画家ローランサンとデザイナーのシャネルを軸に、1920年代のパリが生んだ絵画とファッション約90点が並びます。Bunkamura ザ・ミュージアム 、京都市京セラ美術館、名古屋市美術館を巡回します。
マリー・ローランサンとモード展の感想と解説!
第1章 熱狂時代(レザネ・フォル)のパリ
(I-1)《私の肖像》 1924年
○41歳の自画像です。ローランサンは、パリで人気の肖像画家となりました。体を左に顔をこちらに向け、穏やかな表情を見せています。
グレーの濃淡にブルーを引いた背景です。濃淡が水墨画のような効果を生み出し、抽象的な背景に奥行きを持たせます。
頭髪は右トップにハイライト、もみあげと後頭部に波打った髪が数本加えられています。輪郭は背景色のグレーと同化してはっきりしません。
展示作品ではありません。
切れ長の目とピンクの唇は明確ですが、肌の抑揚はわずかな濃淡で描かれています。衣服は唇と同じピンクです。袖部分はレース生地から、白地にピンクのボーダー柄が覗いています。
ハーフトーンで少ない色数による彩色、ラフな筆致による平面的で簡略された構成が、独自の世界を構築しました。
上図は、22歳の(fig.1)自画像です。図録の巻頭論文にありました。
《マドモアゼル・シャネルの肖像》 1923年
この頃ローランサンは、私立の画塾で絵の勉強を始めました。後にパブロ・ピカソとキュビスムを創始するジョルジュ・ブラック、ファッション・イラストを描くジョルジュ・ルハップらと知り合います。
(I-1)《私の肖像》と比較すると、まだ独自の様式に至らずに写実的な描写がなされています。暗い背景に浮かび上がる表情には、将来の不安や希望を見据える、強い意志を感じます。
《黒いマンテラをかぶったグールゴー男爵夫人の肖像》 1923年頃
第2章 越境するアート
(II-9)《優雅な舞踏会あるいは田舎での舞踊》 1913年
○画面左上をおおう半透明の広がりは幕です。(II-10)《サーカスにて》にも近い形が描かれています。
その下には花が生けられ、流水を花弁の形をした器が受け止めています。また、画面右側にもピンクの幕が揺れています。中庭でしょうか、舞台でしょうか。
ローランサンは1923年に、バレー・リュス(ロシア・バレエ団)の衣装や舞台美術を担当します。しかしその前から、肖像画の背景に幕やリボンを描いていました。
(II-11)《舞踏》 1919年頃
バンジョーを弾く女性は足を組んでいます。足首は交差した線として描かれています。右足から下方を、ダイヤ柄が描かれています。緑色の枠で中面は半透明に描かれており、右足の脛(すね)や左足全体をおおっています。
ダイヤ柄は、右下に向かうにつれ、波紋のように幅を広げていきます。ふたりの女性の足の下では、右下方向に伸びた円弧だけになります。そのまま画面右端までスライドしていきます。
(II-26)《アンドレ・グルー夫人(ニコル・ポワレ)》1913年頃
手前の女性の後ろ足は、ちょうどこの円弧に挟まれています。足首はここでも交差した線です。後ろ足は、途中から重量感を失い円弧と同化しそうです。
その右側の円弧は、上部に薄くピンクが引かれています。ドレスの裾に変わっています。繊細な曲線が広がりを見せる、ローランサン独自のキュビズム的解釈を描いた作品です。
《鳩と女たち》 1919年
第3章 モダンガールの登場
(III-1)ポール・イリブ『ポール・ポワレのドレス』1908年
○ポール・イリーブ、ジョルジュ・ルパップらのアーティストは、ポール・ポワレの作品をポショワール画(型紙摺り)として描きました。
マネキンのように、衣服を着けた状態だけではなく、それに相応しい優雅な暮らしぶりを洗練されたタッチで見せました。
(III-3)ジョルジュ・ルパップ《ポール・ポワレ田舎の装い》1913年
小さなテーブルの上に蛙の置物が置かれています。壁には縦長の絵画が飾られており、大きな窓からは樹木が覗きます。これらの設えは無彩色で描かれています。
一方3人の女性は、黄・青紫・紫と鮮やかに彩色されています。三者三様のドレス姿は、小さな留金まで事細かに描かれています。着こなしを絵画にした、軽快なファッション・カタログです。
(III-23)《日よけ帽子をかぶって立つ女》1912年
(III-28)《羽根飾りの帽子の女、あるいはティリア、あるいはタニア》1924年
(III-38)マーティン・ムンカッチ『ハーバーズ・バザー』誌掲載 1936年
(III-40)ジョージ・ホイニンゲン=ヒューン《ベッティーナ・ジョーンズ、スキャパレッリによる水着》1928年
(III-R9)マン・レイ《ココ・シャネルの肖像》1935年頃
(III-46)《ばらの女》1930年
(III-48)《シャルリー・デルマス夫人》1938年
マリー・ローランサンとモード展の図録をデサインマニアが分析!
マリー・ローランサンとモード #京都
年譜紹介
1918年 #ローランサン 35歳#第一次世界大戦 終結。スペイン風邪が流行し、アポリネールもスペイン風邪で死去する。
1920年 アメリカでは禁酒法が発令され、女性参政権が認められる。https://t.co/4u66tXm5dk pic.twitter.com/JG95bpiUGC— マリー・ローランサンとモード 京都 (@laurencin_kyoto) March 22, 2023
○表紙は(E-1)《ニコル・グルーと二人の娘、ブノワットとマリオン》です。作品の上に、トレペを1枚重ねて見たような、淡い彩色で描かれています。
タイトルは、欧文のロゴタイプだけが白抜きで記されています。スクリプト書体「カムペンディアム(Conpendium)」(下図)をもとに組まれています。
裏表紙は薄いピンクの背景色に、4着のドレスが置かれています。左上から時計回りに、(III-35)マドレーヌ・ヴィオネ《イブニング・ドレス、ストール》。
(E-2)カール・ラガーフェルド、シャネル《ピンクとグレーの刺繍が施されたロング・ドレス》(下図)。(III-34)ジャンヌ・ランパン《ドレス》。(III-20)ポール・ポワレ《ドライブ用コート》です。
○見返しにも、裏表紙と同じピンクが用いられています。表表紙の《ニコル・グルーと〜》と相まって、冊子全体をピンクで包み込んでいます。
○扉には(II-23)《鳩と花》(下図)の部分拡大が、モノトーンで用いられています。
(II-23)《鳩と花》 1935年頃
○ローランサンの作品の多くは、1点を見開きで紹介しれいます。左ページにタイトルと解説、右ページに図版が載せられています。
部分拡大が用いられているのは、絵画ではなくドレス5着です(驚)。やはり1点を見開きで見せます。左ページ半分弱を縦に分割して、左に部分拡大の図版、右にタイトル。右ページに全体像の図版です。
○「出品作品リスト」では、ローランサンの油彩作品に、モノクロ画像が添えられています。
○作品を所蔵する施設のクレジットの対抗ページには、(III-R4)『本物のシックと偽物のシック』から、犬を連れた夫人のイラストが用いられています。
ハードカバー/ W190mm × H257mm/ モノクロ・カラー/ 168ページ/ 日・英
価格:2,750円(税込)
マリー・ローランさんとモード展の会場・巡回先はここ!
東京会場
Bunkamura ザ・ミュージアム
〒150-8507 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
Tel. 050−5541−8600(ハローダイヤル)

会期
2023年2月14日(火)~4月9日(日)
開館時間
10:00~18:00(入館は17:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
休館日
3月7日(火)
アクセス
○JR線「渋谷駅」ハチ公口より徒歩7分
○東京メトロ銀座線、京王井の頭線「渋谷駅」より徒歩7分
○東急・東横線・田園都市線、東京メトロ半蔵門線・副都心線「渋谷駅」A2出口より徒歩5分
○京王井の頭線「神泉駅」北口より徒歩7分
京都会場
京都市京セラ美術館
〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町124
Tel. 075-771-4334
Fax. 075-761-0444

会期
2023年4月16日(日)~6月11日(日)
開館時間
10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日
月曜日
※祝日の場合は開館 年末年始(12月28日〜1月2日)
アクセス
○電車
・地下鉄東西線「東山駅」より徒歩約8分
・京阪「三条駅」・地下鉄東西線「三条京阪駅」より徒歩約16分
※滋賀方面からは、京阪・JR・地下鉄東西線「山科駅」から地下鉄東西線「東山駅」が便利
○市バス
・JR・近鉄・地下鉄「京都駅」から
A1のりば
5系統「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
D2のりば
86系統「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
・阪急「京都河原町駅」から
Eのりば
46系統「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
Hのりば
5系統「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
・京阪「三条駅」から
Dのりば
5系統「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
名古屋会場
名古屋市美術館
〒460-0008 名古屋市中区栄二丁目17番25号(芸術と科学の杜・白川公園内)
Tel.052-212-0001
Fax. 052-212-0005
会期
2023年6月24日(土)~9月3日(日)
開館時間
9:30~17:00 ただし4月29日と9月23日を除く金曜日は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日
毎週月曜日 (祝休日の場合は開館し、翌平日休館。ただし4月4日(月)、8月15日(月)は開館)
アクセス
地下鉄
地下鉄東山線・鶴舞線「伏見駅」下車、5番出口から南へ徒歩8分
地下鉄鶴舞線「大須観音駅」下車、2番出口から北へ徒歩7分
地下鉄名城線「矢場町駅」下車、4番出口から西へ徒歩10分
