和田誠展の感想と解説!似顔絵・名画座ポスター・週刊誌表紙などから83年の生涯をたどる!

「和田誠展」は、イラストやデザインに留まらず、作曲・エッセイ・映画までも手がけた和田誠の没後初の回顧展です。似顔絵、名画座ポスター、図録のデザインなどについて、デザイン愛好家が独自の視点で話します。

和田誠展の感想と解説!

似顔絵

○水色の肌の井上ひさしに、ぎょっとします。しかし、群を抜くのは愛らしくもシュールな手塚治虫(下図)です。『鉄腕アトム』『火の鳥』で知られる漫画の神様は、エッグスタンドに乗せられたゆでたまごでした(驚)。

手塚治虫『ぼくはマンガ家』表紙原画

似せる秘訣はベレー帽のふくらみなのか、両耳を置き去りにして回り込む顔の輪郭なのか、申し訳程度にはみ出した頭髪なのか、大海のような額なのか、ぼってりと居座るオレンジ色の鼻なのか、見逃しそうな顎のラインなのか。「☆」と「の」の字に置き換えられた、つぶらな瞳はちがうとしても。

私は和田がカバーを飾った、手塚の自伝『ぼくはマンガ家』をリアルタイムで読みました。漫画家の似顔絵を、他人が描いているとは夢にも思いませんでした。

私家版絵本

マザー・グース

新宿日活名画座

○映画の告知のポスターです。1959(S35)年から1968(S43)年までの9年間に制作されました。B2サイズ、シルクスクリーン印刷で2〜5色刷りです。通常は会期終了後に廃棄されますが、和田事務所に185枚が保管されていました。

新宿日活名画座「ボブスンの婿選び」ポスター

日活名画座は文字情報の掲載だけを希望しましたが、印刷会社がビジュアルを加えることを提案し和田に制作を依頼しました。初期の作品は、そのことを踏襲しているように思えます。

展示作品は左上から右下に向かい、制作年代順に並べてあります。最初の作品は、紙面をシアン・黄緑・オリーブ色に3分割し、タイトルは書き文字でイラストを行頭に小さく添えています。

週刊文春

その下は縦組みで3分割にしましたが、背景色はピンク1色のため紙面を広く感じます。タイトルは書き文字で、それぞれの登場人物を添えました。

その下になり、イラストが大きな1点になります。文字とイラストが、2対3くらいの割合です。個々の映画を説明するより、告知全体の印象を優先しました。

ポスター

その下からは、タイトルが活字になります。イラストは、映画を象徴する手錠や電話やトラックなどに加え似顔絵も増えていきます。1年ほど過ぎ職場の仕事が多忙になり、デザインは友人に依頼するようになりました。

映画監督

「ボブスンの婿選び」は、チャールズ・ロートン演じるヘンリー・ホレイショ・ホブスンです。でっぷりした容姿を捉え、コミカルに描かれています。

白地(薄いベージュ)に、ベージュで明朝体のタイトル文字が組まれています。その下に引かれた、細い紫色の罫線が緊張感をあたえます。

イラストは帽子を紫、顔と手をピンクで彩色しました。口元から下をトリミングすることで、直線を加わえ丸みを際立たせました。

装丁

ロゴ・マーク

和田誠展の図録をデサインマニアが分析!

○図録というより辞書のような仕様です。作品や言葉が、ぎっしり詰まっています。表紙カバーは、和田がペンで自らの顔を描くひとコマ漫画風の自画像(上図)です。白地にシルバーの箔押しがキラッとします。

薄いブルーが、ブックデザインのアクセントに使われています。帯・本体の表紙・折り返し・「年表」の扉・「作品」の扉には背景色として、「言葉」の扉には囲み罫としてです。

表紙を開くと薄い和紙のページがあります。鼻先がシャワーヘッドになった象が、水を浴びています。勤務時代に描いた、ひとコマ漫画の作品集『21頭の象』からです。

巻頭には、頬杖をつく和田のポートレート(下図)があります。

○本編は「年表」「作品」「言葉」が、年代順に交互に展開します。「年表」は、1936年から2019年までの83年間が、7期に分けられています。扉には、その年齢に似合った自画像(下図)が添えられています。

1年が1〜4ページで、代表作を小さく添えて構成されています。収まりきらない作品は、文末のページ番号から、掲載のある「作品」に飛ぶようにされています(驚)。

○「作品」は幼少期から、現在も眼に触れるものまでバラエティに富んだ26項目です。「和田誠になるまでー大学生」には、蛙のイラストレーションが1等を受賞した新聞記事(下図左)があります。未完成の蛙たちがひしめく、アイデアスケッチ(下図右)も添えられています。

当時のデザイナーの登竜門である、日宣美賞を受賞した「夜のマグリット」(下図右)があります。人物ふたりを、画面の左に三角形のシルエットでまとめます。右1/3ほどにタイトルを縦組みに、概要を横組みに記します。紺色の背景色に、これらをまとめたシャープな構成が絶妙です。

「週刊文春」は、週刊誌の表紙のイラストレーションです。1977年から2017年の40年間に、都会のメルヘンをテーマに2000点を描きました。現在は過去の作品が採用されています。2000号(下図)は、初回に登場したエアメールをくわえた鳥が夜空に羽ばたきます。

『表紙はうたう完全版 和田誠・「週刊文春」のカヴァー・イラストレーション』(下図)が2020年に刊行されました。私は2008年版の、31年分1588点を収録した同書を持っています。完全版が出るとは(驚)。

○「言葉」は、執筆し掲載された記事の抜粋が13項目です。「文字について」は、描き文字を印刷用の文字にする過程です。自身の描き文字は、汎用性の高い印刷用の文字には向かないと考えていました。

「ポスターについて」は、高校時代に訪れた「世界のポスター展」でヘルベルト・ロイピンやドナルド・ブルンのように、ポスターを作る人になりたいと決意しました。

ソフトカバー/ W150mm × H210mm/ モノクロ・カラー/ 520ページ
価格:4,400円(税込)

和田誠展の会場・巡回先はここ!

美術館「えき」KYOTO(京都)

〒600-8555 京都市下京区烏丸通塩小路下ル東塩小路町
ジェイアール京都伊勢丹7階隣接
Tel. 075-352-1111(大代表)

美術館「えき」KYOTO
ジェイアール京都伊勢丹7階隣接 美術館「えき」KYOTOの最新情報をお届けいたします。

会期
2023年5月20日(土)~6月18日(日)

開館時間
10:00~19:30
※入場は閉館の30分前まで

休館日
会期中無休

アクセス
JR、近鉄、京都市営地下鉄烏丸線「京都駅」下車すぐ
京都駅ビル内ジェイアール京都伊勢丹7階隣接

刈谷市美術館(愛知)

〒448-0852 愛知県刈谷市住吉町4丁目5番地
Tel. 0566-23-1636
Fax. 0566-26-0511

刈谷市美術館|刈谷市ホームページ
刈谷市ホームページ

会期
2023年9月16日(土)~11月5日(日)

開館時間
9:00~17:00
※入場は閉館の30分前まで

休館日
月曜日、祝日の翌日、年末年始、展示替え日、館内整備日など

アクセス
電車
○JR(東海道本線)
「名古屋駅」から「刈谷駅」まで、快速で約20分
「豊橋駅」から「刈谷駅」まで、快速で約30分
○名鉄(三河線)
「知立駅」から「刈谷駅」まで約10分
「刈谷駅」の南口から
徒歩で約10分、刈谷市公共施設連絡バス(無料)で約5分

和田誠展
本展は、和田誠の膨大で多岐にわたる仕事の全貌に迫る初めての展覧会です。和田誠を知るうえで欠かせないトピックを軸に、83年の生涯で制作した多彩な作品を紹介します。きっとこれまで知らなかった和田誠の新たな一面に出会えることでしょう。