イサム・ノグチ展の感想と徹底解説!
イサム・ノグチ発見の道 Isamu Noguchi: Ways of Discovery
葉山の神奈川県近代美術館に行くと、イサム・ノグチのふたりの《こけし》に迎えられます。ノグチは抽象彫刻で知られているので、こけしは意外でした。鶴岡八幡宮にもあった同館が、閉館するときに知りました。
29〜43「あかり」インスタレーション1954〜74年
展覧会風景_東京都美術館企画展示室B1F_第1章「彫刻の宇宙」全景
2005年、札幌市に《モエレ沼公園》がオープンし、これを機に同年「イサム・ノグチ展」が札幌・東京で開催されました。《プレイマウンテン》を遠景に、大地をつかむ銀色の《テトラマウンド》。《オクテトラ》、66《プレイスカルプチュア》を始めとする、ノグチが手がけたカラフルな遊具の数々も画像で紹介されていました。
《ニューヨーク国連本部の遊び場の模型》など、レリーフ状に描いた公園のプランもいくつかありました。香川県高松市牟礼町(むれちょう)のイサム・ノグチ庭園美術館から運んだ高さ3.6m、重さ17tの《エナジー・ヴォイド》が話題を呼びました。
21《ヴォイド》1971年(鋳造1980年)
最近では2017〜18年に「20世紀の総合芸術家イサム・ノグチー彫刻から身体・庭へー」が大分・香川・東京で開催されました。
このときは、「北京ドローイング」と呼ばれる身体素描。舞踏家マーサ・グラハムのための舞台美術は、スケッチのほか映像もありました。《2mのあかり》、石彫では《アーケイック》などが展示されていました。私が今まで知らなかったノグチの一面が、展覧会ごとに明らかになります。
22《下方へ引く力》1970年
ノグチは上述しただけでも、絵画、舞台芸術、公園計画、プロダクトデザイン、彫刻と幅広いジャンルで活躍しています。
「イサム・ノグチ発見の道」は、イサム・ノグチ庭園美術館など、国内外からおよそ90件の作品が東京都美術館に集結します。ノグチの多様な作品の中でも彫刻を通し、彼が発見した晩年の到達点である石彫までをたどります。
都立美術館ではB1F、 1F、 2Fの展示室の仕切りをなくし、それぞれの作品を個々として、また全体として鑑賞できるように配置がされていました。
私は牟礼のイサム・ノグチ庭園美術館にも行きましたが、同館以外で多様なノグチの彫刻に囲まれるまたとない機会でした。
庭園美術館は撮影禁止ですが、同展B1F、1Fは可能です。私は手振れの画像が多かったのが唯一心残りでした。
75〜81,83,84《あかり》1954〜74年
第1章「彫刻の宇宙」
彫刻は、木や石を削ったり粘土を盛るイメージがあります。ノグチの彫刻には、平面に描いたパーツを組み合わせ模型を制作する「インターロッキング・スカルプチャー」と呼ばれる作品群があります。
平面的なパーツ自体はアレクサンダー・カルダーが創始した彫刻モビールを思わせます。しかし、それぞれのパーツは組み合わされひとつになり、地平らからすっくと立ち上がります。
パーツを描き切り抜かれた方眼紙は《彫刻のワークシート》とされ、制作の過程を垣間見ることができます。多くのパーツがノグチの頭の中では、すでに彫刻として組み立てられているようです。
《彫刻のワークシート》の展示はありませんが、ミュージアムショップにワークシートをあしらったロールメモがありました。
3《グレゴリー(偶像)》1945年(鋳造1969年)
3《グレゴリー(偶像)》は、フランツ・カフカの『変身』の主人公グレーゴル・ザムザです。彼はある朝自室のベッドで目覚めると、自分が巨大な毒虫になってしまっていることに気が付きます。
つぶらな瞳に、丸みを帯びた愛らしいフォルムをしていますが、いくつもある突起物は足のようです。
第2章「かろみの世界」
鉄板の彫刻が軽みを感じさせるのは、パーツ一枚の厚みがないこと、多くの面がフリーハンドで切り取られていること、折りが連なっていることなどがあります。折り紙。折り鉄。この彫刻を立たせるためのパーツは、幾何学的構造を持つものが多く、メインとなるパーツと響き合います。
51《マグリッドの石》1982〜83年
ノグチの51《マグリッドの石》が浮遊する巨石とすると、呼応するルネ・マグリットの作品には《ピレネーの城》《現実の感覚》があります。前者は頂上に石造の古城を置く巨石が波打ち際の中空に浮かび、後者は巨石が山麓の田園風景に三日月を仰ぎ浮かびます。
《マグリッドの石》は不定形の面を正方形の輪で立たせ、重力にあらがう程よい軽さを感じることができます。ノグチはマグリッドの創作するシュルレアリスムの世界を、自身の抽象の世界に変換しました。
展覧会風景_東京都美術館企画展示室1F_第2章「かろみの世界」全景
イサム・ノグチ展の音声ガイドは声優・日野聡さん
音声ガイドナビゲーターは、「鬼滅の刃」の煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)を演じる声優・日野聡さんです。「彼の生涯に、そして数々の作品に音声で迫って参ります」と日野さん。
貸出料金:1台600円(税込)
イサム・ノグチ展の混雑状況は?
ビッグデータから
混雑状況を、ビッグデータから解析するサイトを見ます。
グーグルマップから
混雑状況は、グーグルマップの左カラムにある「混雑する時間帯」で、曜日ごとに知ることができます。下方にあるマップから「拡大地図を表示」か、グーグルマップで「東京都美術館」を検索して開きます。
展覧会風景_東京都美術館企画展示室B1F
イサム・ノグチ展の所要時間は?
90〜120分。
イサム・ノグチ展のチケットはいくら?
一般1,900円/ 大学生・専門学校生 1,300円/ 65歳以上 1,100円/ 高校生以下無料
※日時指定予約を推奨する。詳細は特設WEBサイトに表記あり。※身体障がい者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障がい者保健福祉手帳・被爆者健康手帳の所持者とその付添い1名は無料(日時指定予約は不要)。いずれも証明できるものを持参する。
※オンラインでの購入が困難な者を対象に、東京都美術館のチケットカウンターにて当日券を販売する。入場できる直近の時間枠に案内する。ただし、来場時に予定枚数が終了している場合がある。
展覧会風景_東京メトロ「上野駅」通路
イサム・ノグチ展の図録をマニアが分析!
・表表紙は告知とほぼ同じです。珍しい。ビジュアルはイサム・ノグチ庭園美術館に屋外展示されている93.《無題》。タイトル「イサム・ノグチ発見の道 Isamu Noguchi: Ways of Discovery」は、ゴシックの書体もレイアウトも同じです。文字の都合で、トリミングが少し変えてあります。大きくちがうのは、背景の石垣のある風景が背表紙を通り、裏表紙まで続いていることです。
・黒の見返しを開くと、和紙にタイトルが今度は明朝です。さらに開くと、繰上和美によるイサム・ノグチのモノクロのポートレートです。眼光鋭い。
・ページの所々に同館の風景が散りばめられています。巻頭からいくつか。瓦屋根と石垣を背景に、二本の石の柱の立つ庭園美術館の屋外風景。初夏の木々の間から覗くイサム家の外観。室内には《あかり22N》《空間のうねり#2》が置かれています。
展示蔵では、左端に円形のシルエットが覗いています。茶と黒のストライプをリングにした、2.2mの《真夜中の太陽》です。手前に88《フロアーロック(床石)》21《ヴォイド》、引き戸のそばには3.6mの《エナジー・ヴォイド》が置かれています。次ページは逆方向から眺めました。円形の全体像が見えます。今回展示されていない作品がいくつもあります。
・庭園美術館からの出品作品の多くは、現地で撮影されています。樹木や土塀や床板や石垣などを背景に、作品は展示室とはちがう表情をしています。この図録の特徴のひとつです。
21《ヴォイド》88《フロアーロック(床石)》は部分拡大に迫力がありました。絵画とちがい立体作品なので、別の角度から撮影されています。特に88は4ページにおよびます。ここを見るのか。
私は以前イサム・ノグチ庭園美術館を訪れたことがあるので、懐かしくページをめくることができました。ほとんど忘れていましたが。
ハードカバー/ W225mm × H297mm/ モノクロ・カラー/ 264ページ/ 日・英
2,900円(税込)
展覧会風景_東京都美術館B1F企画棟ホワイエ
イサム・ノグチ展のグッズは何がある?
展覧会風景_東京都美術館「イサム・ノグチ発見の道」ミュージアムショップ
ミュージアムショップではインテリアの販売もありました