デイヴィッド・ホックニー展に行ってきました!全長90mのノルマンディーの12か月など、約120点が並ぶ!東京都現代美術館で開催中!

英国の画家デイヴィッド・ホックニー。60年以上におよぶ画業をたどる、日本では27年ぶりの個展です。これまでの代表作に加え「春の到来」シリーズや《ノルマンディーの12か月》など約120点が並びます。

デイヴィッド・ホックニー展の感想と解説!

第3章「自由を求めて」

8《23、4歳のふたりの少年》1966年

13《スプリンクラー》1966年

○地平線が画面を水平に分割しています。空は水色で均一に、芝生は濃緑の地に黄緑色のハッキングを重ねて描かれています。

建物はベージュの壁に、薄紅色の屋根を乗せています。窓ガラスは室内の様子と、向かいあう隣家を映し出しています。手前には二股にノズルを分けたスプリンクラーから、勢いよく水が飛び散っています。

窓ガラスに収められた風景と、スプリンクラーの周り以外はほぼ直線で構成されています。この緊張感を壊すのは、言うまでもなく左右斜め上に不定形に伸びる噴水です。

23《リトグラフの水(線、クレヨンと2種類のブルーの淡彩》1966年

本来は形のない水の動きを、輪郭を定め平面的に捉えました。昆虫が開いた半透明の羽根のようにも思えます。さらに、ノズルやホースの破れ目からの水しぶきを、小さく円弧を描く波線や、緩やかに揺れる線として加えました。

この部分は図録でも、見開きで大きく扱われています。水の描写を探求するホックニーの渾身の一筆です。

第4章「肖像画」

27《クラーク夫妻とパーシー》1970-71年

29《両親》1977年

○写実的な「ダブル・ポートレート」です。ホックニーが描きました(笑)。暗い色調の肖像画が多い中、色彩豊かでスタイリッシュな佇まいです。鑑賞者の気持ちを明るくします。

母親の青色のワンピース、緑色のチェスト、その上を飾る黄色と赤色のチューリップと緑色の葉。薄紫色を広げた絨毯。これらは原色に近いビビッドな色調です。中でも、中心に置かれた緑色のチェストが大きく関わります。

30《グレゴリー》1974年

夫婦の性格のちがいも一目瞭然です。両手を膝の上に組み、背筋を伸ばし正面を見据える母親。お構いなしに椅子を斜めに向け、屈んで分厚い書物を覗き込む父親。しかし彼は、シンメトリーな構図を壊し動きをあたえる重要な要因です。

インテリアは、花瓶以外のほとんどは直線で構成されています。このことは、不定形のシルエットを持つ花や人物を際立てます。特に、ボリュームのある人物にスポットを当てます。

46《クリストファー・イシャーウッドとドン・バカー・ディ》1976年

天井は高く、光は左上から柔らかく差し込みます。ふたりは語り合ってこそいませんが、お互いの存在を認め合い、静かな時間に身を任せています。

第5章「視野の広がり」

64《画家とモデル》1974年

○テーブルを挟んで向かい合う、ピカソとホックニーです。ピカソはボーダー柄のトレーナーですが、ホックニーは全裸です。ピカソは濃淡のある面で描かれていますが、ホックニーは重ねた線によります。

ピカソが手にしている用紙は、線で描かれています。ホックニーの持ち物です。自身が描いた作品を、ピカソに見せている場面です。

84《このピカソは何?》1977年

画家とモデルなので、描かれているのはピカソの肖像画でしょう。画家はホックニー、モデルはピカソです。ピカソは作品ばかりではなく、ホックニーの全てを見通してしまいました。よって、ピカソから見たホックニーは全裸です。

ふたりの背景には、カーテンが開けられ隣家の窓が開いた様子が伺われます。室内のように濃淡はなく輪郭だけで描かれており、現実とも空想ともつかない不思議な空間を生み出しています。ホックニーの思い描く空想の世界の出来事であることを示唆しています。

96《2つの椅子を行き過ぎて》1984-86年

101《シーリアのイメージ》1986年

第7章「春の到来 イースト・ヨークシャー」

123《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》2011年

○ipadではなく油彩です。自然の風景が、写実的と言うより装飾的に描かれています。テキスタイルデザインに近いように思えます。

紫色や黄土色や赤茶色の幹が、中央の小径を挟みほぼ左右対称に置かれています。加えて、紫色の幹は辺りを幻想的な空間にします。

117《5月4日》

木の幹と水滴の形をした木の葉は、濃淡もなく平面的に塗られています。また、それぞれ彩色のある輪郭線で囲まれています。

木の葉は、一枚残らずその葉先を小径に向け人工的です。鑑賞者を風景の奥に誘い込むような素振りを見せています。

120《5月30日》

手前には大きく湾曲を繰り返す枝が、縦横無尽に広がり近景を作り出しています。足元には緑色や黄緑色や青緑色の茎と葉が、黄色やオレンジ色や赤紫色の小花を携え遠方まで広がっていきます。

地平線は黄色の小花で埋め尽くされ、奥には鬱蒼(うっそう)とした青緑色の森がぼんやりと霞んでいます。実在と幻想とが織りなす、多彩な春の到来です。

第8章「ノルマンディーの12ヶ月」

125《家の辺り(冬)》2019年
         

126《2021年6月10日-22日、池の睡蓮と鉢植えの花》2021年

127《ノルマンディーの12ヶ月》2020-21年

デイヴィッド・ホックニー展の図録をデサインマニアが分析!

○図録のサイズはA5の横長です。作家の知名度に反して、コンパクトでした(驚)。全長90mの 127《ノルマンディーの12か月》を全て収録するために、この仕様になったのでしょう。

○表紙もやはり、《ノルマンディーの12か月》の部分が使われています。鮮やかな作品ですが、黄色と黄緑はさらに蛍光インクが使われています。

タイトルは表紙に欧文のみで「DAVID HOCKNEY」、背には和文で「デイヴィッド・ホックニー展」と黄色で記されています。

○章立ては8つに分けられています。各章の扉の多くは見開きです。左ページにビジュアル、右はクリーム色の背景色に解説です。ビジュアルを見ていきます。

第1章「春が来ることを忘れないで」は、ホックニーの2021年のポートレート(上図)です。61《自画像、2021年12月10日》に近い装いですが、胸に黄色の水仙のコサージュをつけています。

第2章「自由を求めて」は、4《イリュージョニズム風のティー・ペインティング》(下図)です。パッケージを模した変形キャンバスに描かれていますが、黒人の胸像をトリミングしました。

第4章「肖像画」は29《両親》です。母親の胸像と、チェストに飾った花瓶のチューリップです。ダブルポートレートですが、このトリミングだけでも肖像画として成立しそうです。

第5章「視野の広がり」では、107《ホテルの井戸の眺め III》(下図)の中庭を描いた上部です。

○ぺージの作品掲載点数です。最多が「肖像画」に、1ページに8点が1か所ありました。1ページに1点が25か所。2ページに1点が、《2022年6月25日、(額に入った)花を見る》(トップ画像)を始め4か所ありました。

部分拡大の1ページでの掲載が、9か所。2ページでの掲載が、85《龍安寺の石庭を歩く 1983年2月、京都》(下図)など4か所ありました。

○127《ノルマンディーの12ヶ月》は部分ではなく、全体が64ページに渡り掲載されています。うち両観音開き(4つ折り)が2か所ありました。

ハードカバー/ W220mm × H150mm/ モノクロ・カラー/ 248ページ/ 日・英
価格:3,080円(税込)

デイヴィッド・ホックニー展の会場はここ!

東京都現代美術館

〒135-0022 東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
Tel.03-5245-4111(代表)
Tel.050-5541-8600 ハローダイヤル(9:00-20:00 年中無休)

東京都現代美術館
東京都現代美術館は、常に動き続けるコンテンポラリー・アートを肌で感じることのできるスペースです。

会期
2023年7月15日(土)~11月5日(日)

開館時間
10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
※サマーナイトミュージアムの日(7月21日、28日、8月4日、11日、18日、25日)は10:00~21:00まで開館延長

休館日
月曜日(7月17日、9月18日、10月9日は開館)、7月18日、9月19日、10月10日

アクセス
最寄駅
○東京メトロ半蔵門線「清澄白河駅」B2番出口より徒歩9分
○都営地下鉄大江戸線「清澄白河駅」A3番出口より徒歩13分
○東京メトロ東西線「木場駅」3番出口より徒歩15分、または都営バスで「東京都現代美術館前」下車
○都営地下鉄新宿線「菊川駅」A4番出口より徒歩15分、または都営バスで「東京都現代美術館前」下車