ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会の徹底解説!森美術館で開催中!

「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」は、現代美術館を、学ぶための世界の教室と捉えます。54組のアーティスト約150点が一堂に会します。

ワールド・クラスルーム展の感想と解説!

Language and Literature[国語]

国語は、言葉と文学と訳されています。言葉によって成立する詩や文学は、重要な芸術様式のひとつとして発展を遂げてきました。一方、美術の世界では、絵画や彫刻といった視覚芸術が重要視されてきました。

しかし1960年代に、アイデアやコンセプトこそが作品において重要である、としたコンセプチュアル・アートが勃興します。

米田知子《フロイトの眼鏡ーユングのテキストを見るII》1998年

○眼鏡のレンズから、原稿を覗いています。レンズの円を、画面の正方形でトリミングしました。図形の対比を見せる幾何学的な構図です。写された内容も、標本箱のようでロジックです。感情の入り込む余地は、ないようにも思われます。

眼鏡のぼやけた黒いシルエットが、幻想的な美しさと作品の焦点を作り出します。レンズは言うまでもなく、意味ありげな原稿の一部を拡大しています。眼鏡と原稿の、組み合わせだけなら無数にあります。しかし、作家はこれらを選びました。

ワン・チンソン(王慶松)《フォロー・ミー》2003年

上図の眼鏡の持ち主は、オーストリアの精神科医ジークムント・フロイトです。原稿は後に決別する、弟子のカール・グスタフ・ユングがフロイトの「リビドー論」を批判したものです。眼鏡の持ち主と原稿の筆者は別々です。

貴重な眼鏡からはピントを外し、原稿を鮮明に写し出したところに作品の本意がありそうです。モノクロで静謐なイメージとは裏腹に、言葉に眼鏡の持ち主の葛藤が秘められているからです。

Social Studies[社会]

1990年代以降、現代アートが世界各地から発信されるようになりました。作品の背景にあるさまざまな地域の政治史・社会史・美術史の解釈などへ多角的な視点が求められるようになります。

語られてこなかった歴史や個人史、経済活動やそれを支える社会システム、労働などに対する批判的な視点も多く取り上げられています。

森村泰昌《肖像(双子)》1989年

風間サチコ《獄門核分裂235》2012年

○巨大な空洞のある高層ビルを仰ぎ見ます。いくつもの球体が楕円軌道を飛び交い、原子を形作ります。この画像で見ると漫画の1ページのようですが、実際はW120cm × H181cm の木版画です(驚)。

屋上に掲げられた「罪」の文字や、球体の毒々しい表情がコミカルです。しかし、闇を背に浮かび上がるキノコ雲は、穏やかな日常を包み込もうとしています。

作品は、日本での原子力利用の始まりをテーマとしています。1953年に国連総会で、米国大統領ドワイト・デイヴィッド・アイゼンハワーによる『Atoms for Peace』と呼ばれる演説が行われました。

田村友一郎《見えざる手》2022年

これを機に日本でも1955年に、中曽根康弘が中心となり作成した原子力基本法が成立します。翌年には、正力松太郎(しょうりきまつたろう)を委員長とする原子力委員会が設置されました。

原子核にはアイゼンハワー、頂点には中曾根、右下には正力が不適な容貌を覗かせています。高層ビルは経済産業省総合庁舎本館、その下に内務省庁舎、左奥に国会議事堂が、ブロックパズルのように積まれています。

実在する登場人物や建造物は、架空の中にリアルを持ち込みます。平和を願うスローガンから逸脱し、社会問題に発展した原子力利用の再考を促す情景です。

Philosophy[哲学]

宮島達男《Innumerable Life/Buddha CCIƆƆ-01》2018年

奈良美智《Miss Moonnlight》2020年

Mathematics[算数]

算数は、人類の文明とともに発展してきました。今日、物理爆、科学、天文学、経済学、社会学などさまざまな分野と密接に関連する学問です。

いまだ多くの未解決問題もあり、その思考プロセスは独創的です。美術も数学とは深い関係性があり、黄金比は広く知られています。

杉本博司《観念の形0001 ヘリコイド:極小曲面》2004年

○幾何学模型は彫刻ではありません。数式によって表される、客観的な形状を持つ実用品です。作家はそれを撮影することで、美術作品に仕立て直しました。

模型は円柱を形成する外側の面と、螺旋状に削り取られた内側の面で構成されています。外側の面は、12分割した縦の線が引かれれいます。内側には、正方形とそれを8分割した線で埋められています。面の歪みを明確にするためのものと思われます。

下部に台座が着装されています。CGにはない、石膏と100年ほど前のプロダクトデザインの重みを感じます。

笹本 晃《ドー・ナッツ・ダイアグラム》2018年

光は、左上から当たっています。模型の左上部を広く、螺旋で削られた上部と台座の端をシャープに照らしています。一方、模型の右側は次第に濃さを増します。とくに右上部は、背景の暗闇と同化して消え入ります。

模型は画面すれすれに収められ、幾何学の歴史と重要性を代弁しているかのようです。

Sience[理科]

宮永愛子《まどろみがはじまるとき》2003年

ワールド・クラスルーム展の図録をデサインマニアが分析!

○表紙は厚口のクラフト紙で、ノート風にデザインされています。A罫(7mm 幅)で35行あります。寒冷紗(かんれいしゃ/ 背を補強するためのテープ)も引いてあります。

欧文タイトル「WORLD CLASSROOM」が、行頭を上に縦位置にレイアウトされています。ウェイトのあるサンセリフ体で組まれています。「L」の斜めになった止めに特徴があります(笑)。この部分だけ箔押しが用いられています。

ヤン・ヘギュ《ソニック・ローテーティング》(壁面)2023年

表紙の下半分を、ヤン・ヘギュの平面作品《ソニック・ローテーティング》(上図)を用いた帯が包みます。薄茶色と黒で構成された表紙に、彩りをあたえます。ストライプに凹凸のあるエンボス紙が用いられています。

表紙裏には「数字で見る森美術館の20年」があります。
・展覧会 企画展59
・概要 総入場者数18,743,595名 1日平均入場者数3,213名
・コレクション 455点
など、20年間の歩みが数値化されています。会場のエントランスにもありました(下図)。

表紙裏の対抗ページにも、ヤン・ヘギュがあります。帯と同じ素材です。

各章の扉は、見開きで構成されています。左ページが余白、右ページに「Philosophy」などと欧文タイトルが大きく記され、解説が述べられています。水色・青緑・ピンクなど8科目分の色面に、A罫が引かれ背景とされています。

ツメが下の小口(こぐち)にあります(驚)。通常はノドの向かいに並んでいます。

54組のアーティストによる作品は、1組2ページで掲載されています。作家名はタイトルの扱いです。一方、作品名はキャプションとして、小さく添えられています。

ソフトカバー/ W210mm × H282mm/ 1色・カラー/ 176ページ/ 日・英
価格:3,960円(税込)

ワールド・クラスルーム展の会場はここ!

森美術館
〒106-6131 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F
Tel. 050-5541-8600(9:00~20:00)

会期
2023年4月19日(水)~9月24日(日)

開館時間
10:00~22:00 (最終入館 21:30)
※会期中の火曜日は17:00まで(最終入館 16:30)
※ただし5月2日(火)、8月15日(火)は22:00まで

休館日
会期中無休

アクセス
東京メトロ日比谷線「六本木駅」1C出口、徒歩3分(コンコースにて直結)

森アーツセンターギャラリーにアクセス!日比谷線「六本木駅」から!
東京メトロ日比谷線「六本木駅」から「森美術館」「東京シティービュー」「森アーツセンターギャラリー」まで、多くの画像を交えて案内します。

都営地下鉄大江戸線「六本木駅」3出口、 徒歩6分

森アーツセンターギャラリーにアクセス!大江戸線「六本木駅」から!
東京メトロ大江戸線「六本木駅」から森アーツセンターギャラリー、東京シティービュー、森美術館まで、多くの画像を交えて案内します。

都営地下鉄大江戸線「麻布十番駅」7出口、徒歩9分
東京メトロ南北線「麻布十番駅」4出口、徒歩12分
東京メトロ千代田線「乃木坂駅」5出口、徒歩10分

森美術館 - MORI ART MUSEUM
現代アートを中心にファッション、建築、デザイン、写真、映像など様々なジャンルの展覧会を開催。