大竹伸朗展2022は、現代日本を代表するアーティストの大回顧展です。《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》など、およそ500点が一堂に会します。東京国立近代美術館・愛媛県美術館・富山県美術館を巡回します。
大竹伸朗展2022の感想と解説!
「自/他」
《「黒い」「紫電改」》(2)1964年
○意図的に、風化した用紙を選びコラージュしたようにも思えます。大竹は8、9歳の頃の作品を大切に保存していました。もとになったのは、ちばてつやの漫画『紫電改のタカ』です。
人物を対角線に配し、間の空間に戦闘機が飛び交っています。上の戦闘機のプロペラと、主翼の先端は描き足されています。
プロペラは回転して円を描きます。円で切り抜くとその中に、もとの絵の空の背景が残ります。作家は、抽象的な空間を想定しており、そのことを認めませんでした。
《EZMD I》(27)(右)1984年
円の線幅を切り抜くことは困難です。円は切り抜かずに描き足しました。右の主翼に、もとのプロペラの白いラインが残っています。ここで、コラージュにドローイングが加わります。
下の戦闘機のプロペラは、上下のハイライトの部分だけ残してあります。下のハイライトが「紫」の上に掛かり、遠近を生み出しています。戦闘機が画面から飛び出し、こちらに向かってくるように感じます。
「時間」
《赤いヘビ、緑のヘビ》(60)1984年
タイトルは「紫電改のタカ」ではなく「黒い」「紫電改」です。「黒い」は、一峰大二(かずみねだいじ)の野球漫画『黒い秘密兵器』から採りました。タイトル文字が、青と赤に彩色されグラフィカルです。ルビも残されています。
この作品により大竹少年は、これまでの丁寧な描写は貼ることで代替できることに気づきました。膨大で常識では収まりきらない作品のルーツといえます。
「移行」
《ニューシャネル》(96)1998年
○レリーフ状に表面加工されたスナックのドアは、ウィリアム・モリスの植物の模様を思わせます。ドアの取手も曲線を多用しロココ調のようです。
思い描くのは、クラシックで優雅な佇まいです。しかしそうはならなかったのは、無機質な銅板の彩色や、重ねすぎた装飾が一因かもしれません。
《日本景/東京 II》(101)1997年
ドアの上部に記された、ニューシャネルのタイポグラフィーに目を留めます。ニューシャネルとは、ファッションブランドとは何ら関係はなくここだけの造語です。の、はずでした。
ロゴタイプを作るときは、正方形の枠組みを想定します。その中に一文字だけの、また並んだときのバランスを考慮しながら作ります。各所で用いられている大竹のオリジナル書体も、そのようにして作られています。
「音」
《ワイキキ I》(169)2000年
ドアに記された文字は、角材に黒で彩色を施し貼り付けてあります。「ニュー」は「=」のように平たいです。「シャネル」は、上のラインは揃っていますが下は見事にバラバラです。
「シ」は小さく「ネ」は長点が短いです。「ネ」と「ル」は字間が空いています。文法通りではない不思議な空気感が漂います。
《Black Wall》(183)2015年
ドアを作品として引き取ったのは、アーティストの目利です。ニューを冠した軽さの中に、プロフェッショナルが持ち合わせない、独自のスタイルを見つけました。
大竹伸朗展2022の図録をデサインマニアが分析!
#大竹伸朗展 図録は…
☑️新聞3部
☑️パノラマシート3部
☑️B全シート1部、冊子(A4/128ページ)1部からなる【8部構成】に加え、
蛍光紙に活版で印刷したカバーシート📙がセットされています‼️ pic.twitter.com/MnCWaCxUR7— 大竹伸朗展【公式】 (@ohtakeshinroten) December 10, 2022
○ カバーシート
タイトルなどが、オリジナル書体で黄緑の蛍光色の上に組まれています。東京国立近代美術館は2行に改行され、右側を罫線で囲んでいます。図録は全体を囲んでいます。
活版印刷のため黒いインキの部分が凹んでいます(驚)。裏面はパッケージのセット内容と、会期・会場がピンクの蛍光色で記されています。光り物です。
W148mm × H420mm/ 表2色・裏1色/ 日・英
○1「自/他」「記憶」「時間」
新聞フォーマットです。半分に畳んであります。横組みなので、通常の新聞とちがい右から開きます。
《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》(1)2012年
1面は《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》(1)(上図)の2013年に丸亀市猪熊源一郎現代美術館での展示風景。9歳のときのコラージュ作品《「黒い」「紫電改」》(2)などがあります。
《男》(23)(手前)1975年
中面には、最初の展示室で鑑賞者を出迎えたオブジェの《男》(23)(上図)が、紙面上下いっぱいに置かれています。制作当時の、石神井(しゃくじい)のアトリエでのスナップも添えられていました。フランケンシュタインを演じる《ボリス・カーロフ II》(33)(下図)がありました。
《ボリス・カーロフ II》(33)2000年
2「時間」「移行」「夢/網膜」「層」
「移行」の項では、美術館に設置された《宇和島駅》(77)(下図)の駅名看板が、横幅いっぱいに掲載されています。大竹のオリジナル書体のもとになった、スナックのドア《ニューシャネル》(96)もあります。
《宇和島駅》(77)1977年
3「層」「音」
「層」が2から続きます。「音」で7つのテーマは一旦終了します。ちなみに、「音」では展示室は2階に移動します。ショップはエントランスにあります(笑)。
遠隔操作ロック箱《ダブ平 & ニューシャネル》(215)(下図)が、ステージとコントロールブース、会場では見ることのできないステージの裏面まで掲載されています。
《ダブ平 & ニューシャネル(ステージ)》(215)1999年
《ダブ平 & ニューシャネル(コントロールブース)》
W406.5mm × H546mm/ カラー/ 16ページ/ 日・英
4 「モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像」
4になって、新聞フォーマットから1枚のシートになります(驚)。1面のタイトルのレイアウトのちがいに気が付きます。3までは折り目が下でしたが、4は右になります。縦位置です。
ドクメンタは、ドイツ・カッセルで5年に1度開催される現代美術のグループ展です。同展に2012年にドクメンタ13に展示した《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》の様子が紹介されています。
ドクメンタ13では展示室ではなく、屋外で木立の下に《モンシェリー》が置かれています。看板や室内の照明にライトアップされる、幻想的な夕方の展示風景があります。
シートの裏面には、小屋の中に置かれているスクラップブックのおそらく全ページが見開きで掲載されています(驚)。1ページが1作品に該当する内容です。冊子の中面は、映像で紹介されることが多いです。今回は会場ではなくここにありました。
W813mm × H1092mm/ カラー/ 6面/ 日・英
5 「自/他」「記憶」
5からはパノラマシートです。折り目が上になります。開くとタイトルが、右下に縦組みで置かれています。紙面が横に4面つながり蛇腹折りになっています。再び「自/他」「記憶」のテーマに戻って、大型作品が掲載されています。
《サンティアーゴ》(219)1985年
中面には《憶景 14》(220)が1面、《時憶 30》(221)が1面、《サンティアーゴ》(219)(上図)は何と2面で掲載されています。私はこれまで図録で、これ以上に大きな図版は見たことがありません。新聞サイズが生み出した大迫力です。
6 「スクラップブック #01-#71、1977-2022」
今度の折り目は下です(笑)。
1面には『スクラップブック #1 /ロンドン』(227)が実物大で掲載されています。中面にはスクラップブックを立てた状態で、背方向と小口方向から見たものが64冊、それだけに収まらないものが7冊あります。2面に渡ってスクラップブックの見開きの抜粋があります。濃厚。
『スクラップブック #71 /宇和島』(227)2018–2021年
7 自作本
表紙と見開き4ページの5ページで掲載が93冊、シートなどその他が21冊でした。
『鼠景神—0と1 /帯電する15の回想』(405)2001年
W1626mm × H546mm/ カラー/ 8ページ/ 日・英
○8 冊子
表紙はシルバーの背景色に黒枠の文字の2色です。中面は1色刷りですが、黒とダークグリーンが交互に表れます。背にオレンジ色の糸が覗いています。糸綴じ製本が用いられています。
ソフトカバー/ W210mm × H297mm/ 表紙2色・中面1色/ 192ページ/ 日・英
価格:2,700円(税込み)
大竹伸朗展2022展の会場・巡回先はここ!
東京国立近代美術館
〒102-8322千代田区北の丸公園3-1
Tel. 050-5541-8600(ハローダイヤル 9:00~20:00)


会期
2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)
愛媛県美術館
〒790-0007 愛媛県松山市堀之内
Tel. 089-932-0010
Fax. 089-932-0511
会期
2023年5月3日(水)~7月2日(日)
富山県美術館
〒930-0806 富山県富山市木場町3-20
Tel. 076-431-2711
Fax.076-431-2712
会期
2023年8月5日(土)~9月18日(日)