上野リチ展に行ってきました!ウィーンと京都で活躍した女性デザイナー、上野リチ・リックスの世界初の回顧展です!

上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジーは、ウィーンと京都で活躍した女性デザイナー上野リチ・リックスの世界初の回顧展です。ウィーン工房に在職していたたリチは、建築家上野伊三郎と結婚し京都に移り住み、二都を行き来しながらデザインを手がけました。

展覧会ではリチの描いたテキスタイルや室内装飾のほか、ヨーゼフ・ホフマンらによるウィーン工房の作品・資料など、約370件が一堂に会します。

上野リチ展の感想と解説!

(II-1-18)《ウィーン工房テキスタイル:さくら》

《さくら》が桜なら、花弁が4枚ということもあります。しかし、私は全体の揺らぎに目を留めました。大きなものはしべが描かれていますが、ほぼ同じ形の繰り返しです。

ダゴベルト・ぺヒェの(I-2-70)《ウィーン工房壁紙:ダフネ》も、やはり同一形態の繰り返しです。月桂樹の葉も枝も、フリーハンドで描かれています。薄緑とグレーに、背景色がベージュの落ち着いた配色です。

大きさの異なる葉が、いく枚も散りばめられています。葉の形は紡錘形(ぼうすいけい)で広く面積を持たないため、リズミカルというよりシャープです。樹木をモチーフとしていますが、都会的な印象を受けます。

いっぽう、《さくら》の花弁は、円に近い楕円形のため面積を持ちます。丸みを帯びた4枚葉が所狭しと隣接しており、フリーハンドによる個々の花弁の歪みがきわだちます。

また、大きさの近いものが横に並びますが、部分的に2行並びを3行並びに変えるなど、規則性の中に変則をあたえています。

配色は、黒い背景色に薄紅のグラデーションの2色です。これらの歪み・変則・配色が、リチの《さくら》にオリジナルな揺らぎを生み出しました。私には揺れる夜桜が、ミステリアスな世界に誘っているようにも思えました。

(Ⅲ-2-01)《七宝飾箱デザイン:馬のサーカスI》

制作年を見ると(P-04)《スケッチブック4》と重なります。私はこの道化師たちの筆圧が、この先どう収束して行くのかが気になっていました。

リチの作品は、鉛筆やインクなどによるドローイングに、パステルや水彩などで手彩色されたデザイン画と、それをもとに商品化された完成品とがあります。

完成品に至っていないものは想像の余地がありますが、私はやはり見届けたいと思います。《七宝飾り箱デザイン》は、そのどちらもありました。

《馬のサーカスI》で天板に描かれた白馬の右後足は、デザイン画では尾で隠されていますが、完成品では描かれており安定感を加えます(上図)

リチが活躍していたウィーン工房では、デザイナーと職人が対等に協働することを謳っていました。京都時代に作られたものですが、このことを踏襲し七宝職人が手を加えたのでしょう。

箱のデザインは、天板1面と側板4面の5面があります。ひとつの面に描くだけではなく、これらをどういった関係にするかもデザインです。

《馬のサーカス》シリーズでは、背景色やパターンは同一ですが5面はそれぞれ独立しています。

いっぽう《中国ー紙の龍》シリーズでは、パターンの一部が天板から側板へと続いています。また《花(スズラン)》《草叢の虫》では、箱の角が丸くなっており、側板4面はひとつづきに描かれています。

そして《結婚式》では、ひとつづきの側板を、ダークグリーンの背景色に白い花が飾っています。側板は天板のにぎやかな群衆とは切り離されています。私は全体を2面に分け明暗を持たせた、このデザインを箱らしく思いました。

ちなみに、(Ⅲ-2-12)《七宝飾箱:中国ー紙の龍》が、京飴のパッケージになっていたので購入しました(下図)

(Ⅲ-2-67)《クリスマス・オーナメント・デザイン:天使》

鉛筆で描かれたオーナメントのデザイン画です。完成品も彩色したものもありません。丸い頭部は球体の発泡スチロール、円錐台の胴体は厚口の紙を扇形に切り抜き両端を留める。と、素材の予測は立ちそうです。

しかし、配色は分かりません。(2)が、金色のシルエットにした(Ⅱ2−03)《ウィーン工房壁紙:そら豆》を重ね、京都展の告知にも使われています(上図)

私はデザイン画としては彩色もなく未完のようですが、鉛筆画としては完成でもいいように思います。図録には天地いっぱいに拡大された天使もあり、なかなか迫力もあります。

(3)では、オーナメントを玩具として用いた様子が描かれています。オルゴールのようにつまみを回すと、天使のメリーゴーランドが動き出すのでしょう。傘と台座に彩色をほどこすとすると、天使も意外とカラフルなのかもしれません。

また、傘と天使は手前上方からの視点に対し、台座とポールは真横から描かれています。私は、キュビズムががったところも愛らしく思えました。

上野リチ展の図録をデサインマニアが分析!

・図録は上部1/5ほどを残し、リバーシブルのカバーが掛けられています。欧文のタイトルが、小口に寄せられ天地いっぱいに金色で記されています(上図)。

『Felice [Lizzi] Rix-Ueno Design Fantasy originating Vienna』。Viennaはウィーンで、ウィーン発祥のデザインファンタジーが直訳です。リチは他に影響されないオリジナルな創作をファンタジーと呼びました。

カバーのビジュアルは片面が(Ⅲ-2-66)《ウィーンのクリスマス市》です(下図)。ツリーを手に、市に向かう群衆は絵本のようです。

もう片面は(Ⅱ-1-17)《ウィーン工房テキスタイルデザイン:日本》を始め8点からなり、ビビッドな配色がパッチワークのようにまとめられています。

・カバーの下からのぞく表紙には(Ⅱ-2-03(4))《ウィーン工房壁紙:そら豆》が使われれいます(下図)。色違いで5点あるうちの1点です。白地にピンク、水色、薄い緑、薄い灰色で配色されており、ちょっとシュールで柔らかな植物です。

カバーを外すと、《そら豆》が、図録をまるごと包み込んでいることが分かります。さすが壁紙、適材適所です。欧文タイトルは、やはり小口に寄せられ、今度は小さく記されています。

・扉など区切りとなるページの、配色や図版の使い方が大変美しいです。そこに、リチたちのモノクロのポートレートがドラマを添えています(下図)。

表紙を開くと、シルバーだけのメタリックなページと、抽象画とも思える(Ⅲ-1-44)《化粧ポーチ・デザイン》のモノクロの部分拡大のページがあります。中面は無彩色から始まります。

開くと、黒だけのページに、朱色のページには欧文タイトルが小さく記されています。私はこの見開きの大胆な配色に驚きました。

さらに、デザインだけを追っていくと、白地にシルバーで(Ⅱ-2-04)《ウィーン工房壁紙:芥子》の部分拡大と、シルバーのページ。

白地のページと朱色のページ。シルバーのページと白地のページ。朱色のページと、白地に朱色で(I-2-53)《ウィーン工房テキスタイルデザイン:タナグラ》の部分拡大。シルバーのページと、リチのポートレートへと続きます。

特に巻頭は、色彩と図版が、入れ替わり立ち替わり現れます。私はこれらの色彩は、リチが手がけた、日生劇場のレストラン「アクトレス」の壁画をイメージしたものだと思います(下図)。

ソフトカバー/ W188mm × H229mm/ モノクロ・2色・カラー/ 348ページ/ 日・英
価格:2,800円(税込)

上野リチ展のグッズは何がある?

京飴は私が購入した《中国ー紙の龍》のほかに、(Ⅲ-2-05)《七宝飾箱:馬のサーカスII》もありました。

美術館屋外のプレートにとまっていたカラフルな鳥(II-2-40)《イースター用ボンボン容れのデザイン(2)》、ロビーの白い壁面に金色であった(Ⅲ-1-43)《スキー用刺繍デ手袋ザイン》など形のユニークなものが、型抜きポストカードになっていました。

図録のカバーにもなっている(Ⅲ-2-66)《ウィーンのクリスマス市》は、8面蛇腹ポストカードでありました。

上野リチ展の混雑状況は?

混雑状況は、グーグルマップの左カラムにある「混雑する時間帯」で、曜日ごとに知ることができます。下方にあるマップから「拡大地図を表示」か、グーグルマップで「京都国立近代美術館」「三菱一号館美術館」をそれぞれ検索して開きます。

上野リチ展の所用時間は?

90分〜120分
私は、11:40〜13:00で鑑賞しました。

上野リチ展のチケットはいくら?

京都展

一般1,700円/ 大学生1,100円/高校生600円/中学生・15歳未満 無料

※上野リチ展のチケットでコレクション・ギャラリーも観覧できる

東京展

一般1,900円/ 高校・大学生1,000円/ 小・中学生 無料

※毎月第2水曜日17時以降はマジックアワーチケットとして1,200円 
マジックアワーチケットは実施月の1日に「Webket」内にて販売開始

上野リチ展の会場・巡回先はここ

京都展 2021年11月16日(火)~2022年1月16日(日)

京都国立近代美術館
〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町26-1
075-761-4111(代表)

開館時間
9:30~17:00(金・土は20:00まで)
※入場は閉館の30分前まで

休館日
月曜日(月曜日が休日に当たる場合は、翌日が休館)、年末・年始

アクセス
JR・近鉄~バス
○JR・近鉄「京都駅前」(A1のりば)から
市バス5番 銀閣寺・岩倉行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
○JR・近鉄「京都駅前」(D1のりば)から
市バス100番(急行)清水寺・銀閣寺行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
阪急・京阪~バス
○「阪急烏丸駅」「京都河原町駅」「京阪三条駅」から
市バス5番 銀閣寺・岩倉行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
○「阪急烏丸駅」「京都河原町駅」「京阪祇園四条駅」から
市バス46番 祇園・平安神宮行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
市バス他系統
「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」下車徒歩約5分
「東山二条・岡崎公園口」下車徒歩約10分
地下鉄
地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口より徒歩約10分

東京展 2022年2月18日(金)~5月15日(日)

三菱一号館美術館
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-2
Tel. 050-5541-8600(ハローダイヤル)

開館時間
10:00〜18:00
(祝日を除く金曜と会期最終週平日、第2水曜日、開館記念日の4月6日は21:00まで)
※入館は閉館の30分前まで

休館日
月曜日、展示替えの4月12日
※但し、トークフリーデー:2月28日・3月28日・4月25日、3月21日、5月2日、5月9日は開館

アクセス
JR「東京駅」(丸の内南口)徒歩5分
JR「有楽町駅」(国際フォーラム口)徒歩6分
都営三田線「日比谷駅」(B7出口)徒歩3分
東京メトロ千代田線「二重橋前〈丸の内〉駅」(1番出口)徒歩3分
東京メトロ有楽町線「有楽町駅」(D3/D5出口)徒歩6分
東京メトロ丸ノ内線「東京駅」(地下道直結)徒歩6分