神坂雪佳展の感想と解説!日本画家・図案家雪佳と、琳派の作品もあわせ絵画・図案集・工芸品など約80点を展示!

「つながる琳派スピリット 神坂雪佳」は、京都で生まれ明治から昭和にかけて活躍した、琳派の系譜に連なる日本画家・図案家の神坂雪佳(かみさかせっか)と、本阿弥光悦から始まる同派の作品もあわせ、絵画・図案集・工芸品など約80点を展示します。

神坂雪佳展の感想と解説!

○1章「あこがれの琳派」は、雪佳に至るまでの琳派の絵師たちの流れです。琳派は本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)、俵屋宗達に始まり、百年後に尾形光琳(おがたこうりん)、弟・尾形乾山(おがたけんざん)が私淑します。

さらに百年後の大阪に中村芳中(なかむらほうちゅう)。江戸には酒井抱一(さかいほういつ)、後継者・鈴木其一(すずききいつ)らが現れ継承しました。

俵屋宗達《双犬図》(3)

尾形乾山《唐子図筆筒》(6)

中村芳中『光琳画譜』(16)「仔犬」(p.37右上)

『光琳画譜』は芳中ひとりの色摺絵本です(笑)。

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○2章「美しい図案集」から雪佳の登場です。雪佳は明治30年代を中心に図案集を出版しています。実用性の高い『染色図案 海路』(27)『蝶千種』(29)や、絵画の作品集のような『ちく佐』(26)『百々代草』(31)などがあります。

『ちく佐』(26)

「藤つほ」(p.56)

「秋の月」(p.56)

(p.64下)

色面の構成はアンディ・ウォーホルを思わせます。

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『滑稽図案』(28)

芳中は琳派にゆるさを、雪佳は滑稽さを加えました。

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『百々代草』(31)

「立波」(p.92)

画面いっぱいに波濤(はとう)が描かれています。波しぶきの明と闇の暗。波のシルエットの不定形と月の正円。打ち寄せる波の動と闇に浮かぶ月の静。と、それぞれの対比が描かれています。

月は画面の中心より左に置かれ、右方向へ向かう波の動きを際立たせています。波の左上のくぼみからは、月がわずかに覗きます。月は正円とわかるギリギリのところまでを隠されています。

波は抑揚のある輪郭線で、外形をたどり平面的に描かれています。闇、月、波濤と3枚のレイヤーを重ねただけの図案は、しかし自然の一瞬の表情を切り取っています。

「八つ橋」(p.92)

エルメスの季刊誌『LE MONDE D`HERMES』2001年春・夏号の表紙を飾りました。

「牧童」(p.99)

「狗児」(p.99)

左上から右下に引いた、対角線の右上に多くが描かれています。左下は白い子犬の頭部と、その視線の先にいるカタツムリです。竹の根元もわずかにかかりますが、あとは余白ばかりが広がります。

右手前の2本の竹、白い子犬、奥の竹と、遠近もこの線上に並べられています。白い子犬の上半分の太い線は、鼻先から腰まで一気に引かれています。真っすぐに伸びた黒い竹は、子犬の丸さと柔らかさを際立たせるのにも一役買っています。

悠々と進むカタツムリには、子犬でなくとも目を留めてしまう構図です。

「住の江」(p.100)

パズルのピースを合わせたような、海辺の風景を俯瞰しています。図案化された松林に目を留めると、全体がミニチュアのようです。

山なりに重ねられた細い線は、3DCGを描くワイヤーフレームモデルのように、立体的な海面を出現させます。私は歌舞伎に使われる浪幕を思いました。

繊細な盛り上がりを際立たせるのは、海面よりも広がりを占める平坦な砂浜です。

住の江は大阪市住吉区にある松の名所です。『古今集』に詠まれた藤原敏行朝臣(ふじわらのとしゆきあそん)の「住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人めよくらむ」に取材しました。

「春の田面」(p.101)

このまま続けていくと、ピート・モンドリアンになるのでしょうか。

「冬の川」(p.103)

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○4章「琳派を描く」は、図案から離れ雪佳の描いた絵画作品です。

《金魚玉図》(65)

軒先に風鈴ではなく金魚を吊るしました。金魚玉です。ガラスの容器は塗り残しました。たらし込みは、樹木の幹ばかりではなく金魚までも彩ります。正面から見る、金魚の表情がユーモラスなことは雪佳により見い出されました。

尾鰭(おひれ)を広げたシンメトリーな佇まいは、不安定な吊忍(つりしのぶ)により存在感をふくらませました。描き表装には葭簀(よしず)がびっしりと編まれています。画家は初夏の京都に一陣の涼風を吹かせました。

神坂雪佳展の図録をデサインマニアが分析!

○図案集『百々代草(ももよぐさ)』にいる「狗児(くじ)」(上図)が、表表紙・背表紙・裏表紙を包み込んでいます。それぞれの表紙は、まわり6mm ほどを子犬の体を残して白枠で囲まれています。白枠は、雪佳のふんわりとした配色に緊張感をあたえています。

タイトルは表表紙には「KAMISAKA Sekka」と白抜きで欧文だけが記されています。「KAMISAKA」は、画面の左端に右に90°回転させ縦に小さく置かれています。「Sekka」は白枠に接して大きく記されています。これらの文字の配置と、「S」の先にカタツムリが来るトリミングが絶妙です。

背表紙には、和文と欧文タイトルが黒で併記されています。「inheriting」は継承です。「つながる」と訳されています。裏表紙は竹と白い子犬の背中の隙間から、薄茶色の子犬が顔をのぞかせています。令和の世になっても、装丁画に持って来いの図案集です。

『百々代草』「春日野」(p.92)

○表表紙の折り返しには『古今和歌集』に取材した『うた絵』(巻第七 賀歌)(p.105)から千鳥が。裏表紙側は『百々代草』の「春日野」(p.92)から鹿(上図)がやって来ました。

表表紙の裏面には海や波をモチーフにした『染色図案 海路』から、p.68の右下の図案が。裏表紙側は、p.71の左下がそれぞれ薄青の単色で引かれています。

会場案内と雪佳のポートレートのある、p.2-3の背景には『百々代草』から「菊桐」(p.100)が。目次(p.6-7)の背景には『ちく佐』から「松島」(p.62)が。

参考文献(p.166-167)の背景には『ちく佐』からp.66上の図案が。奥付(p.184)の背景には『蝶千種』からp.81右列上(上図左)の図案が、それぞれ薄いグレーの単色で使われています。

これらは、彩色はありませんが形の際立つものが選ばれています。本編の図版は小さく掲載されていますが、こちらは見開きで使われているものもあり見応えがあります。

欧文の会場案内(p.191)には、折り返しにもいた『うた絵』の千鳥(p.105)が今度は背景とともに使われています。

画面左に「や」「ち」「よ」「と」「そ」「な」「く」がバラバラと置かれています。仮名で水鳥が飛び立つ様子を表しました。芦、水流、石などに見立てた書体を「芦手(あしで)」、それらを用いた絵を「芦手絵」と言います。

○各章の扉は見開きで、代表する作品が添えられています。1章「あこがれの琳派」は、深緑色の背景色に本阿弥光悦の書、俵屋宗達の下絵で手掛けられた《月梅下絵和歌書扇面》です。

2章「美しい図案集」は、『ちく佐』からp.64上の図案が全面に引かれています。ちょうど文字の組めるスペースが空いています(驚)。

3章「生活を彩る」は、燕脂色(えんじいろ)の背景色に《住之江蒔絵色紙箱》(p.118)が、4章「琳派を描く」は、《杜若図屏風(かきつばたずびょうぶ)》(p.142-143)(上図)の左隻の部分が全面に引かれています。

これらは素材としてあつかわれています。掲載が部分であったり、文字がかぶったりしています。しかし、やはり本編の図版より大きく載せられています。見どころのひとつです。

神坂雪佳展の混雑状況は?

私は平日の午後に京都会場で鑑賞しましたが、空いていました。

ビッグデータから

「パナソニック汐留美術館」をビッグデータから解析するサイトを見ます。

https://komu.artafterfive.com/exhibition?a=155

グーグルマップから

混雑状況は、グーグルマップの左カラムにある「混雑する時間帯」で、曜日ごとに知ることができます。下方にあるマップから「拡大地図を表示」か、グーグルマップで「パナソニック汐留美術館」を検索して開きます。

神坂雪佳展の所用時間は?

60〜90分

私は13:48から15:15で鑑賞しました。

神坂雪佳展のチケットはいくら?

東京会場

一般1,000円/65歳以上900円/ 大学生700円/ 中学・高校生500円/ 小学生以下無料

※障がい者手帳の提示者および付添者1名までは入館無料

ウェブサイト割引 引き換え券 | パナソニック汐留美術館 Panasonic Shiodome Museum of Art | Panasonic
パナソニック汐留美術館(東京・汐留)ではフランスの画家ジョルジュ・ルオーのコレクションを常設・企画展で一般公開するほか「建築・住まい」「工芸・デザイン」をテーマとした企画展を開催しています。

神坂雪佳展の会場・巡回先はここ!

富山会場

富山県水墨美術館 
2021年6月22日(火)~8月1日(日)

長野会場

水野美術館
2021年8月7日(土)~9月26日(日)

京都会場

細見美術館
2022年4月29日(金・祝)~9月26日(日)

東京会場

パナソニック汐留美術館
〒105-8301 東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
Tel. 050-5541-8600(ハローダイヤル)

会期
2022年10月29日(土)~12月18日(日)
前期 10月29日(土)~11月29日(火)/ 後期 12月1日(木)~12月18日(日)

開館時間
10:00~18:00(入館は17:30前まで)
※11月4日(金)は夜間開館 20:00まで(入館は19:30前まで)

休館日
水曜日、11月23日(水・祝)は開館

アクセス
JR「新橋駅」烏森口・汐留口・銀座口より徒歩約8分
東京メトロ銀座線「新橋駅」2番出口より徒歩約6分
都営浅草線「新橋駅」JR新橋駅・汐留方面改札より徒歩約6分
ゆりかもめ「新橋駅」より徒歩約6分
都営大江戸線「汐留駅」3・4番出口より徒歩約5分