岐阜県美術館所蔵品の感想と解説!オディロン・ルドンの作品250点を所蔵!

岐阜県美術館は、オディロン・ルドンの作品約250点を所蔵しルドン美術館の異名をとります。岐阜県ゆかりの作家、山本芳翠(やまもとほうすい)、熊谷守一(くまがいもりかず)、川合玉堂(かわいぎょくどう)、前田青邨(まえだせいそん)、荒川豊藏らの作品は全体の過半数を占めます。

開館当時600点から始まった所蔵品は、約4200点を数えるまでになりました。また、2014年に山本芳翠《裸婦》重要文化財に認定されました。

岐阜県美術館所蔵品の感想と解説!

山本芳翠《浦島図》1893〜95年頃

帰路に就く浦島を不気味な暗雲がおおいます。遥か後方に蜃気楼のように浮かぶ竜宮城から、延々とただならぬ行列が続きます。後方に立つ白衣の女性は、リードをつけた2頭イルカに、自らが乗ったほたて貝を引かせています。

行列の先頭では、子どもの従者が薄紅の布で浦島を囲んでいます。従者たちは頭髪こそ黒色ですが、容姿は聖母子像のようです。浦島を運ぶ亀の甲羅は、フジツボでおおわれ貫禄たっぷりに見えます。

浦島は髷(まげ)はなく長髪で、勾玉の首飾りをつけています。薄紅とクリーム色の上下にストライプの帯を締め、腰蓑(こしみの)もなくすっかり垢抜けた様子です。手にした玉手箱は漆塗りではなく、矩形に切り出された貝片で箱全体を包む豪華な螺鈿(らでん)です。

明治中期の日本に洋画排斥の風潮がありました。フランス留学から帰国した洋画家芳翠が、起死回生の一打を狙って描いた奇妙な日本のお伽話です。

日比野克彦《PRESENT AIRPLANE》1982年

ダンボールの表面は、色彩本来のもつ意味合いに風化や退廃のイメージを加えます。この作品は、キャンバスではなくダンボールを選んだことで、多くの部分が成立しているように思われます。

画面には模型飛行機3機と欧文が、書きなぐるように描かれています。機体は抑揚のある輪郭で囲まれ、翼には欧文が記されています。窓には穴の開けられたところもあります。一列に並ぶ赤いラインは、機体の白い部分をはがしその上に引かれています。

大きく記された欧文はカッターで切り抜かれ、一部は赤鉛筆で彩色がなされています。小さな欧文と右下のエンブレムはペンや赤鉛筆によります。

背景にはボール紙が貼られていたり、ダンボールの表面がやぶられ中芯(なかしん)の波型が覗いていたり、ペイントがしてあったりです。異なる色彩や凹凸を持ち、切り刻まれた区画が複雑に絡み合います。

クラフト感満載な画面に降り立った模型飛行機は、今またカジュアルで懐かしい世界に飛び立とうとしています。

オディロン・ルドン《『夢のなかで』II.発芽》1879年

海面をおおう闇の中に、いくつもの顔が浮遊しています。宇宙へ通じる扉が開き、そこから多くの生命体があふれ出したようにも見えます。当初は人の顔をしていますが、次第に丸みを帯び無数の天体へと移行する様子でしょうか。天体望遠鏡や顕微鏡の発達により明らかにされた世界に、ルドンは奇怪な生物を同居させました。

オディロン・ルドン《『夢のなかで』VIII.幻視》1879年

ギュスターヴ・モローの《出現》(下図)を思わせる宮殿の内部です。宙に浮いているのは、洗礼者ヨハネの首ではなく発光する巨大な眼球です。幻視は手前のふたりが見た光景でしょうか、異界から現れた眼球に映る現世でしょうか。


※岐阜県美術館所蔵品ではありません

オディロン・ルドン《『エドガー・ポーに』I.眼は奇妙な気球のように無限に向かう》1882年

画面の中央に、頭部を運ぶ巨大な眼球の気球が浮かびます。下方1/4ほどに水平線があり、海面が黒く描かれています。左手前の草は遠近を加え、海辺からのぞむ風景であることを示しています。空を埋める雲の白と、気球と海面に塗られたの黒とのコントラストが美しいです。

オディロン・ルドン《蜘蛛》1887年

上目遣いの蜘蛛が、前歯をのぞかせ笑っています。全身は10本の足を備えグロテスクですが、表情はお茶目なキモカワスパイダーです。ちゃっかりと、ミュージアムグッズにもなっていました。

オディロン・ルドン《神秘的な対話》1896年

廃墟の神殿の柱に囲まれ、ふたりの女性が佇んでいます。右の女性はうつむき、左手は葉や実の付いた朱色の小枝を、右手は左の女性に握られています。実際の作品の朱色は大変鮮やかで驚きました。左の女性は黄色のヒジャブ(スカーフ)をまとい、右手の人差し指を立て何かを語りかけています。

神殿の床は遠近を持ち後方へと延びています。ふたりの足元には、色のかたまりのような、架空の草花が咲き乱れています。柱の隙間から覗く紺碧の空には、桃色の雲が浮かびます。色合いのある雲は、草花と相まって幻想的な世界を生み出しています。

オディロン・ルドン《眼をとじて》制作年不明

正円を水平垂直の線で4分割します。このとき、左下にできる扇形がこの作品の構図のもとになっています。

女性は扇形の円弧に沿って横たわっています。衣服の装飾と草花とは明確に描き分けられはておらず、その境界は曖昧にしてあります。このあたりの草花は、小さく密に描かれており、女性から分離していったようにも思えます。

女性の顔はこの作品の主ですが、目を閉じた様子が茶色の濃淡だけで描かれています。草花に比べると単調ですが、周りの広すぎるほどの余白が主を成立させています。

女性の腹部には、アネモネなど写実的に描かれた草花があります。黄・白・紫と花弁を持ち上げ、存在感を発揮しています。

背景となる扇形の内側は、水色系でわずかな抑揚を持たせ塗られています。外側は灰色の空間をはさみ、青緑で塗られています。ここは、空でも海でもなく抽象的な広がりのようです。


※岐阜県美術館所蔵品ではありません

《眼をとじて》は、いく通りものヴァリエーションがあります。この色彩豊かな《眼をとじて》は、それらから派生しました。

1889年に描かれた最初の《眼をとじて》は、地平線の彼方から光輪を持った女性の巨大な胸像が現れます。構図は単調ですが迫力があります。大地は黄土色に、女性は茶色に、背景は淡い赤茶に部分的に水色を加た濃淡で彩られています。

その後の《眼をとじて》はモノクロのリトグラフ。オルセー美術館収蔵となった《眼をとじて》(上図)は、白く輝く水面に、女性は焦茶色の髪に薄茶色の肌、背景は淡い水色の濃淡で描かれています。


※岐阜県美術館所蔵品ではありません

女性のモデルは、ミケランジェロの《瀕死の奴隷》や、ルドン夫人を描いた《黄色いショールのルドン夫人》(上図)と言われています。

ルドンは色彩を黒から多彩に、モチーフを奇妙な生き物から肖像画や花にゆるやかに移行しました。《眼をとじて》は、そのターニングポイントとなる重要な作品です。

岐阜県美術館所蔵品の図録をデサインマニアが分析!

『岐阜県美術館名作50選2005年度版』

・おもて表紙は、山本芳翠《浦島図》の部分拡大で背表紙まで続きます。うら表紙は臙脂色(えんじいろ)が引かれています。

・作品は、日本の絵画(日本画・洋画)、西洋の絵画、立体(工芸・彫刻)に分けて掲載されています。多くは1ページに1作品で解説が添えられています。

岸田劉生《自画像》1914年

・日本の絵画は、奥村土牛(おくむらとぎゅう)《犢(こうし)》、川合玉堂(かわいぎょくどう)《老松蒼鷹(ろうしょうそうよう)》、伊藤深水《鏡》、山本芳翠(やまもとほうすい)《浦島図》、岸田劉生(きしだりゅうせい)《自画像》(上図)、三尾公三《仮面のステージ》、李禹煥(リ・ウファン)《線より》、篠田桃紅《人よ(II)》などが掲載されています。

エドヴァルト・ムンク《マドンナ》1895〜1902年

・西洋の絵画は、オディロン・ルドン《目は奇妙な気球のように無限に向かう》《眼をとじて》《オリヴィエ・サンセールの屏風》、ギュスターヴ・モロー《ピエタ》、ポール・ゴーギャン《ナヴェ・ナヴェ・フェヌア(かぐわしき大地)》、エドヴァルト・ムンク《マドンナ》(上図)、ジョアン・ミロ《人と月》、ピエール=オーギュスト・ルノワール《泉》など。

アリステッド・マイヨール《地中海》1902〜05年

立体は、各務鑛三《飾皿 銘祈り》、荒川豊藏《志乃茶碗 銘早春》、ジュリアーノ・ヴァンジ《子供を連れた男No.2》、アリステッド・マイヨール《地中海》(上図)など。

・資料編に、「岐阜県ゆかりの作家出身地図」、「岐阜県ゆかりの作家生没年表」があります。

ソフトカバー/ W182 × H257mm(B5)/ モノクロ・カラー/ 80ページ

『岐阜県美術館名作50選2018年度版』

・おもて表紙は山本芳翠《裸婦》の部分拡大です。うら表紙はダークグリーンです。

熊谷守一《ヤキバノカエリ》1956年

・日本の絵画は、横山大観(よこやまたいかん)《月明(げつめい)》、前田青邨(まえだせいそん)《出を待つ》、山本芳翠《裸婦》、藤島武二《浴室の女》、熊谷守一(くまがいもりかず)《ヤキバノカエリ》(上図)、山口長男(やまぐちたけお)《作品(かたち)》、坂倉新平《ブルーの根源ー1》などが掲載されています。

ジョルジュ・ルオー《神よ、われを憐れみたまえ、あなたの大いなる慈しみによって》1948年

・西洋の絵画は、オディロン・ルドン《幻視》《絶対の探求…哲学者》《神秘的な対話》《青い花瓶の花々》、ポール・セリュジエ《森の中の焚き火》、ジョルジュ・ルオー《神よ、われを憐れみたまえ、あなたの大いなる慈しみによって》、藤田嗣治(レオナール・フジタ)《夢》、ジョルジュ・ブラック《緑の円卓》、パブロ・ピカソ《ランプの下の静物》など。

ヴァレリアーノ・トルッピアーニ《錨を上げる》1975年

立体は、荒川修作《名前のない耐えているものI》、宮島達男《Opposite Circles》、日比野克彦《SWEATY JACKET》、オーギュスト・ロダン《イヴ》、ヴァレリアーノ・トルッピアーニ《錨を上げる》(上図)など。

ソフトカバー/ W182 × H257mm(B5)/ モノクロ・カラー/ 80ページ

岐阜県美術館利用案内

〒500‐8368 岐阜市宇佐4‐1‐22
Tel. 058-271-1313
Fax. 058-271-1315

開館時間
10:00〜18:00
(展示室の入場は17:30まで)
夜間開館日
企画展開催時の第3金曜日は10:00~20:00
(展示室の入場は19:30まで)

休館日
月曜日(祝・休日の場合はその翌平日)
年末年始 2022年12月26日(月)〜2023年1月4日(水)
臨時休館 2022年4月1日(金)~4月4日(月)
2022年7月23日(土)~7月29日(金)
2023年3月20日(月)〜3月31日(金)

所蔵品展観覧料金
一般340円/ 大学生220円/ 高校生以下無料

団体(20名以上)
一般280円/ 大学生160円/ 高校生以下無料

アクセス
電車
○JR東海道線
・JR「西岐阜駅」下車、徒歩15分
・JR「岐阜駅」下車、タクシーまたは岐阜バス
○名鉄
・「名鉄岐阜駅」下車、タクシーまたは岐阜バス
バス
○岐阜バス
(鏡島市橋線)JR「岐阜駅」(6番乗場)または、「名鉄岐阜駅」(1番乗場)乗車、「県美術館」下車
○岐阜市コミュニティバス
・西ぎふ・くるくるバス
「西岐阜駅南口」乗車、「県図書館・美術館」下車
・すまいるバス(三里・本荘地区循環)
各所乗車、「県図書館・美術館」下車